ハーロウの猿実験

ハーロウの代理母の猿実験

布製代理母と針金製代理母の比較実験-

 

アメリカの心理学者ハリー・ハーロウによる実験で、発達心理学の分野では良く知られた実験を紹介します。このハーロウの実験は、社会的に衝撃を与え、動物擁護運動を生み出すきっかけにもなったものです。

ハーロウは箱の中に布で出来た代理母と、針金で出来た代理母を容易し、その箱の中で赤ちゃん猿を育てました。布製の代理母は、体温同等の温度に暖められていますが、ミルクを飲むことはできない状態です。針金製の代理母には、哺乳瓶を取り付けてあり、ミルクを飲むことができる状態です。赤ちゃん猿は、お腹が減ったときだけ、針金の代理母からミルクを飲み、お腹が満たされると、直ぐに布製代理母の方に寄り付きます。その姿は、とても不安そうな様子でした。布製母と針金製母の距離を遠く離しても、同じ結果になりました。2匹の猿を、哺乳瓶を取り付けた針金代理母と、同じく哺乳瓶を取り付けた布製代理母で別々に育て、しばらくその環境下で過ごした後に、哺乳瓶を取り付けていない(=ミルクの出ない)針金母と布製母の下で過ごさせると、2匹の猿はその殆どを布製母と過ごし、針金母からミルクをもらっていた猿も針金母に興味を示さず、布製母にしがみつきました。

恐怖感を与える人形や蛇を赤ちゃん猿に見せると、赤ちゃん猿は戸惑いなく布製代理母にしがみつきました。この状況で布製母を取り除くと、猿は部屋の隅で泣き叫び続けますが、やがて自分から人形に近づいていきます。同じ実験を、針金代理母だけを設置し、布製母がいない状況で育てられた赤ちゃん猿で行うと、今度は叫び続けるだけで、人形に近づくことはできなかったのです。布製の代理母ですが、温もりを感じる存在と触れあうことで、一定の心理的安定性を構築し、外界に向かう好奇心や探究心を持つことができます。つまり、猿の心理的・精神的成長にとって、「皮膚感覚の接触(=スキンシップ)」が何よりも重要であることが判明しました。この代理母の比較実験の結果から、共認動物(猿・人類)にとって、皮膚感覚の接触を求める行動は赤ちゃんのときから染み付いているもので、心理的・精神的成長ためには、必要不可欠な行為であると言えます。

その後、ハーロウは、「母性は不用」と言う内容を発表しました。布でも何でも温かい接触さえあれば、子供は育つので母親はいなくても育つと言う論理です。しかし、この発表は赤ちゃん猿の成長過程での発表であり、数年経つと布製の代理母で育った猿も、針金製の代理母で育った猿も、正常には育ちませんでた。代理母で育った猿はみな、恐怖感が異常に強く、攻撃的で異常行動を起こすようになってしまったのです。社会性も育たないために集団に馴染めず、虐められ、最終的には集団を追い出されてしまいました。性行動も子育てもできず、さらには、自分の腕や指を噛んで血だらけになっていたり、自分の腕を噛み切ってしまったりした猿もいたそうです。結局、ハーロウの発表した「母性は不要」と言う結論は事実に反しており、単に温もりがあるだけの代理母では、対象性と社会性を欠如してしまうことが明らかになりました。
 代理母の体を動くようにしたり、正常な猿たちと遊ぶ時間をつくったりすると、発達はかなり改善されましたが、大幅な改善には至りませんでした。猿(人類も含めて)の成長と発達において、母親や仲間との関係性や反応が非常に重要であることがわかりました。