ビジネス基礎の一考察

2019年7月27日(土)

國學院大學日本語教育研究会

(於國學院大學)口頭発表資料

 

『ビジネス基礎』の一考察

-高等学校商業科教科書の活用-

 

國學院大學兼任講師

大東文化大学非常勤講師

西帝京学苑講師

岡田 誠

 

 

 

現在、ビジネス教育の必要性は高まっている時代である。ビジネス書も広く流通している。しかし、体系的なビジネスを考えたとき、そのモデルを示した書籍は数少ない。そのため、ビジネスとはいうものの、分野別に考えざるをえないといってよいであろう。しかし、ビジネスは相互に関連するものである。それらを俯瞰するのは大切なことではなかろうか。その意味で、高等学校商業科で必須科目とされている「ビジネス基礎」という科目は、その体系性を示しており、ビジネスの分野を手掛ける際の入門として有効であると考える。以下、「ビジネス基礎」という科目の教科書である『ビジネス基礎』をビジネスの体系的なものとして中心に据えて考察していく。

 

0.ビジネス基礎とは何か

 

ビジネス基礎とは何であろうか。ビジネススクールで知られ、MBAを発行しているグロービス経営大学院では、若手ビジネスパーソンからの質問で「何から学びはじめたらよいか」という受講生の質問が多数あり、それに応える形で執筆されたのが、グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』(東洋経済新報社)である。「20年を超えるグロービスの教育現場の中で、繰り広げられてきた延べ7万人以上のビジネスパーソンとの会話、社会人学生のクラス内での状況などを観察する中で特に重要だと考えている10の力は次の通りです」(p.5)として、以下のものを示している。

 

グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』東洋経済新報社

1.論理思考力 2.コミュニケーション力 3.仮説構築力

4.情報収集力 5.データ・情報収集力 6.次の打ち手を考える力

7.プレゼンテーション力 8.周囲を巻き込む力 9.チームを作る力

10.志を育てる力

 

次に、高等学校商業科の教科書ではどのようにビジネス基礎を扱っているのであろうか。高等学校商業科では、「ビジネス」という言葉のつく科目が6科目ほどあり、その中でも「ビジネス基礎」が基礎科目、「ビジネス実務」「課題研究」「総合実践」が総合科目になっている(注1)。「ビジネス基礎」は後に学ぶ「マーケティング分野」(マーケティング・商品開発・広告と販売と促進)・「ビジネス経済分野」(ビジネス経済・ビジネス経済応用・経済活動と法)・「会計分野」(簿記・財務会計Ⅰ・財務会計Ⅱ・原価計算管理会計)・「ビジネス情報分野」(情報処理・ビジネス情報・電子取引・プログラミング・ビジネス情報管理)の四分野の基礎を扱ったものである。『ビジネス基礎』の教科書の出版社は、実教出版・暁出版・東京法令出版の三社である(注2)。以下に出版社ごとに目次を示してみる。

 

『新ビジネス基礎』暁出版・2018年・144暁商業302

第1章 商業のガイダンス 第2章 ビジネスと売買取引

第3章 経済と流通の基礎 第4章 企業活動の基礎

第5章 ビジネスとコミュニケーション

 

『ビジネス基礎 新訂版』実教出版・2018年・7実教商業334

1章 商業の学習ガイダンス 2章 経済と流通の基礎

3章 ビジネスの担い手 4章 企業活動の基礎

5章 ビジネスと売買取引 6章 売買に関する計算

7章 ビジネスとコミュニケーション

 

『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版・2018年・190東法商業335

第1章 商業の学習ガイダンス 第2章 ビジネスとコミュニケーション

第3章 経済と流通の基礎 第4章 企業活動の基礎

第5章 ビジネスと売買取引

 

第1章の商業のガイダンスのあとの目次をみると、提出順序に大きな違いがあることがわかる。暁出版と実教出版のものはビジネスの基礎的な知識を提示した上で、それぞれ最終章に「ビジネスとコミュニケーション」が示してある。それに対して、東京法令出版は第2章で「ビジネスとコミュニケーション」を扱っている。東京法令出版の教科書は、コミュニケーションを早い段階で習得させるタイプのものであることがわかる。

 

公益財団法人・日本漢字能力検定協会の実施している、「BJTビジネス日本語能力テスト」がある。これは現在では、外国人が日本で働くための日本語によるビジネスコミュニケーション能力測定試験として定評がある(注3)。BJTビジネス日本語能力テスト準拠として編集された、本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』では、以下の章立てで構成されており、実践的なビジネスとコミュニケーションであることがわかる(注4)。

 

第1部 基礎編

1.1 ビジネス会話の基本 1.2 社会人としての言葉づかい

1.3 「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の違い 1.4 覚えておきたい慣用句

第2部 ビジネス編

2.1 ビジネスで用いるあいさつ(部内、社外) 2.2 社内で使うあいさつ

2.3 社外で使うあいさつ 2.4 名刺交換

2.5 遅刻、欠勤、早退などの連絡

2.6 仕事の開始(指示の受け方、メモの取り方)

2.7 電話の受け方、かけ方 2.8 メールの書き方

2.9 会議/ミーティングを行う(準備、会話、議事録など)

2.10 来客への対応(ご案内、受付)

2.11 アポイントを取る(場所や時間を決める、変更)

2.12 取引先への訪問(受付、面会、新商品の案内)

2.13 社外向けのビジネス文書 2.14 社内向けのビジネス文書

第3部 ビジネス用語辞典

3.1 自分や会社の呼び方 3.2 組織名の呼び方 3.3 部署名の呼び方 

3.4 役職名の呼び方 3.5 主なビジネス用語

 

以下、『ビジネス基礎』と『ビジネス日本語マスターテキスト』を一次資料として考察していく。

 

1.重要語句の選択

 

実教出版と暁出版には、重要語句のまとめが章ごとの区分けで掲載されている。以下にその用語を掲載し、暁出版と実教出版とでほぼ共通して示されている用語については太ゴチックで示してみる。なお、東京法令出版にはまとめはついていない。

 

【暁出版】・・110

(1章 商業の学習ガイダンス)

商品流通経済ビジネス・運送・保管・情報・保険・生涯学習

(2章 ビジネスと売買取引)

売買取引・売買契約・銘柄・現場渡し価格・持ち込み価格・F.O.B.価格・C.I.F.価格・前払い・後払い・見積依頼書・注文書・納品書検収請求書領収証小切手不渡り線引小切手約束手形為替手形・手形の裏書き・遡求・クレジットカード電子マネー・振り込み

(3章 経済と流通の基礎)

企業家計政府・ミクロ経済・マクロ経済・国際経済・生産の3要素・トレードオフ機会費用・高度消費社会・ブランド管理・サービス経済化・インターネットのインフラ整備・加工貿易バイオマス・食品のトレーサビリティ・有機農法クラスタービジネス・冷温輸送・人的隔たり場所的隔たり時間的隔たり・情報の隔たり・POSシステム・EOS・ストアオートメーション・製販同盟・知的財産権コンプライアンス商的流通・金融・普通銀行の主要な業務・物的流通・ロジスティツクス・セキュリティ・ファイアウォール・認証システム・個人情報

(4章 企業活動の基礎)

有限責任無限責任・私企業・株式会社・株主総会・協同組合・公企業・公私合同企業・経営組織・水平的分化・垂直的分化・ライン組織・ラインアンドスタッフ組織・マトリックス組織・企業金融・証書借入・手形借入・手形割引・当座借越・法人税・消費税・福利厚生

(5章 ビジネスとコミュニケーション)

就業規則ビジネスマナーバーバルコミュニケーション・ノンバーバルコミュニケーション尊敬語謙譲語丁寧語・美化語・投資家向け広報・マスメディア・情報管理・ファイリング・ハッカー・クラッカー・ユーザーID

 

実教出版】・・155

(2章 経済と流通の基礎)

商品・消費・生産・流通経済・経済主体・家計企業政府・付加価値・ビジネス・ニーズ・土地・資本・労働力・生産要素・生産要素の希少性・トレード=オフ機会費用・需要・供給・サービス経済化・情報セキュリティ・情報モラル・情報リテラシーグローバル化・ローカライゼーション・ユニバーサルデザイン人的隔たり場所的隔たり時間的隔たり商的流通物的流通(物流)・流通機構・流通経路・収集機能・分散機能・仲継機能・生活用品・産業用品・業種・セルフサービス方式・業態・プライベートブランド商品・電子商取引(EC)・潜在顧客・O2Oショールーミング顧客満足マーケティング

(3章 ビジネスの担い手)

製造物責任法・ブランド・アウトソーシング・商圏・一般小売店・専門店・百貨店(デパート)・対面販売・総合スーパー・スーパーマーケット・生鮮三品・コンビニエンスストア・都市型小規模スーパーマーケット・ホームセンター・通信販売・商店街・ショッピングセンター・コーポレートチェーン・ボランタリーチェーンフランチャイズチェーン・集散地卸売業者・元卸売業者・商社・輸送・保管・包装・流通加工・荷役・ロジスティックス・中央銀行・預金業務・貸出業務・為替業務・保険料・保険金・保険者・保険契約者・被保険者・インターネット=サービス=プロバイダ

(4章 企業活動の基礎)

経営理念・株式会社・株式・定款・株主総会・取締役会・監査役・出資と経営の分離・運転資金・設備資金・クラウドファンディング法人税・住民税・事業税・固定資産税・消費税・申告納税方式・雇用契約・終身雇用・成果主義賃金制度・労働組合・企業倫理・コンプライアンスコーポレートガバナンス

(5章 ビジネスと売買取引)

売買契約・建と建値・現場渡し価格・持ち込み渡し価格・見積り・見積依頼書・注文書・納品書検収請求書領収証小切手不渡り線引き小切手約束手形・預金の振替・銀行振込・クレジットカードデビットカード電子マネー

(6章 売買に関する計算)

仕入諸掛・仕入原価・値入れ・度量衡・換算・利息・片落とし・両端入れ

(7章 ビジネスとコミュニケーション)

直接的コミュニケーション間接的コミュニケーションビジネスマナー尊敬語謙譲語丁寧語・顧客データ・営業マニュアル・引用・個人情報保護法

 

暁出版では「ミクロ経済」「マクロ経済」という経済学との視点の用語が掲載され、実教出版では「経営倫理」「企業倫理」という用語が掲載されているのが特徴的である(注5)。

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』の主なビジネス用語では、以下の183語が取り上げられている。

 

相見積もり・粗利・育児休暇・意思決定・異動・売上・売り上げ・売掛・営業・

営業利益・会釈・卸売・卸値・買掛・外勤・解雇・会社・掛率・課題・葛藤・架電・株主・仮配属・管理職・機会損失・期日・帰社・既存客・基本給・休日・給料・教育・業界・競合・業種・業績・競争・経営・計画・景気・経済・経費・系列・月給・欠勤・決済・決算・原価・権限・原資・研修・検収・考課・広告・控除・交渉・購買・小売・顧客・個人情報・在庫・財務諸表・削減・残業・時給・自己啓発・試作品・資産・

市場・時短・四半期・資本・使命・締日・社会貢献・受注・出荷・出勤・出庫・出向・仕様・昇格・商圏・商社・昇進・商談・消費者・商標・商品・消耗品・賞与・剰余金・商流・職位・職能・職場・職務・人材・人材育成・進捗・成果主義・請求書・精算・生産・生産性・正社員・成長・成約・整理・責任・専門職・戦略・相殺・早退・退社・貸借対照表・退職・代理店・たたき台・棚卸・単価・遅刻・知的財産・中小企業・

帳票・直帰・直行・通勤・定価・定時・定昇・手形・手取り・転籍・店頭・同行訪問・同調・特許・取締役会・取引・内勤・内部留保・日給・入荷・入庫・値引き・

年末調整・年俸制・年齢給・納期・能力・能力主義・売価・配属・配置・派遣社員・発注・販売・雛形・備品・費用・歩合・付加価値・福利厚生・負債・物流・訃報・

富裕層・振替休日・不良品・方針・法人・見える化・見込客・見積もり・目的・元請・問題・役員・役割・有給休暇・優先順位・予算

(pp.185-212)

 

全体的にみると、実践的な用語が取り上げられているが、ビジネスで使用されるカナカナ用語が掲載されていない点が不足していると感じる。また、「自己啓発」という用語が掲載されているが、ビジネスとモチベーションという意味での関連性であろうか。

 

2.『ビジネス基礎』のビジネスコミュニケーション

 

2.1敬語の扱い

 

「ビジネスとコミュニケーション」では、三社それぞれ、敬語の扱い方に違いがある。以下に示してみる。

 

【暁出版】

尊敬語・謙譲語の言い換え(p.204)『新ビジネス基礎』暁出版

普通

尊敬の表現

謙譲の表現

言う

おっしゃる

申す・申し上げる

見る

ご覧になる

拝見する

聞く

お耳にはいる

うかがう・拝聴する

行く

いらっしゃる

参る・うかがう

来る

いらっしゃる

参る

訪ねて行く

いらっしゃる

おじゃまする

いる

いらっしゃる

おる

する

なさる

いたす

もらう

お受けになる

頂戴する・いただく

与える

たまわる・くださる

さし上げる

 

敬体と最敬体(p.204)

常体

敬体

最敬体

ある

あります

ございます

する

します

いたします

もらう

いただきます

ちょうだいいたします

そうだ

そうです

さようでございます

思う

思います

存じます

 

「お」「ご」の丁寧語としての使い方(p.205)

「お」「ご」をつける場合

「お」「ご」をつけない場合

相手の物事につける

(例)お荷物・お体

相手の行為に敬意を表す

(例)お話・ご意見

相手に関わる自分の行為や物事につける

(例)お礼・ご返事

慣用的につける

外来語や外国語

(例)お(×)スープ・お(×)コップ

慣用的につけない

(例)お(×)靴下・お(×)新聞

公共の建物や施設

(例)お(×)駅・お(×)学校

敬意を表していることば

(例)おはよう・ご苦労さま

(例)ご(×)新郎・お(×)社長

 

実教出版は、敬語が一覧のみで軽く扱われていることがわかる。それに対して、東京法令出版は、接客の実践例として例文で多くしめしていることがわかる。暁出版は敬語の一覧票を充実させていることがわかる。

 

実教出版

敬語の一覧(p.182)『ビジネス基礎 新訂版』実教出版

常体

尊敬語

謙譲語

丁寧語

会う

お会いになる

お目にかかる

会います

言う

おっしゃる

申す

言います

行く

いらっしゃる

伺う・参る

行きます

いる

いらっしゃる

おる

います

帰る

お帰りになる

失礼する

帰ります

聞く

お聞きになる

伺う、拝聴する

聞きます

来る

おこしになる

伺う、参る

来ます

する

なさる

いたす

します

食べる

召し上がる

いただく

食べます

見る

ご覧になる

拝見する

見ます

 

東京法令出版

ビジネス慣用敬語(p.27)『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版

「いつもお世話になっております」「お待たせいたしました」「恐れ入ります」

「申し訳ございません」「席をはずしております」「ただ今」「後ほど・先ほど」

「かしこまりました」「よろしいでしょうか」「存じかねます」「いかがなさいますか」

「いかがいたしましょうか」「さようでございます」「ちょうだいいたします」

「お手数ですが」

敬語の例(p.33)

行為

尊敬語

謙譲語

丁寧語

する

なさる・される

いたす

します

見る

ご覧になる

拝見する

見ます

言う

おっしゃる

申す

言います

食べる

召し上がる

いただく

食べます

来る

いらっしゃる

参る

来ます

いく

 

 

 

いる

 

 

 

 

七大接客用語と留意点(p.35)

接客用語

留意点

いらっしゃいませ。

心から歓迎し、アプローチのきっかけをつくる。

はい、かしこまりました。

顧客の呼びかけに即答する。

少々お待ちくださいませ。

数分でも待たせることは、顧客にとって苦痛であることを認識する

お待たせいたしました。

お詫びの心をあらわし、対話再開のきっかけとする(包装後の商品を渡すときも)。

ありがとうございます。

心をこめた感謝をあらわす

申し訳ございません。

品切れ、数量不足などがあった場合、丁重に詫びるとともに他の商品をすすめるか再度の来店を促す。

恐れ入りますが・・。

相手に行動を促したり、行動をやめてもらう。

 

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』(pp.26-30)では、以下の一覧表を示しでいる。会話重視のため、丁寧語・尊敬語・謙譲語の順に示し、それぞれの敬語の使い方も紹介してあり、会話例も示してあり実践的である。この敬語の作り方は日本人母語話者も苦手な面があるので、活用したいところである。

 

原形

丁寧語

尊敬語

謙譲語

言う

言います

おっしゃる

申し上げる

話す

話します

お話になる

お話しする

聞く

聞きます

お聞きになる

お聞きする、拝聴する

見る

見ます

ご覧になる

拝見する

する

します

なさる

いたす

行く

行きます

いらっしゃる

参る、伺う

来る

来ます

お越しになる

参る

いる

います

いらっしゃる

おる

食べる

食べます

召し上がる

いただく

あげる

あげます

くださる

差し上げる

読む

読みます

お読みになる、読まれる

拝読する、お読みする

借りる

借ります

お借りになる、借りられる

拝借する、お借りする

知る

知ります

ご存知

存じ上げる

 

(丁寧語の使い方)

-です                      3個だ→3個です

-ます                      行く→行きます

-ございます             ありがとう→ありがとうございます

「お」を付ける          名前→お名前

(尊敬語の使い方)

お-になる                お出かけになる、お書きになる、お使いになる

ご-になる                ご覧になる、ご利用になる

-れる                      話される、行かれる、飲まれる

-られる                   出られる、来られる、送られる

(謙譲語の使い方)

お-する                   お迎えする、お持ちする、お借りする

ご-する                   ご案内する

言い換え                   見る→拝見する

                                      言う→申し上げる

 

2.2名刺交換の記述

 

ビジネスの現場で行われる名刺交換の記述が、出版社ごとに異なる。特に実教出版の記述では、同時に名刺交換を行う記述があるのが特徴的である。

 

【暁出版】p.198

相手が入室したら、立ち上がってあいさつする。初対面の場合には名刺を交換する。名刺は自分のものであるあっても相手のものであっても丁寧に扱う。専用の名刺入れを用意しておく。

名刺は訪問した側から先に出す。相手に読める向きで差し出し、会社名・部署名・役職・氏名を名のる。

名刺を受け取る場合は、必ず両手で受け取り、丁寧に扱う。受け取った名刺は用件が終わるまでテーブルの上などに置き、用談が終了したときに名刺入れなどにしまう。

なお、訪問日時や用件、相手の特徴などを簡単にメモしておくと後で役に立つことがある。

 

実教出版p.181

受け渡しは目下のものが先に出すのが一般的なルールです。相手から先に出されたら、「申し遅れました」と一言そえて名刺を差し出します。名刺の交換は両者が立って行うのがマナーです。

名刺を渡すときは、直接両手でさし出します。名前に指がかからないように持つのがマナーです。受け取るときも同様です。

同時に交換する場合は、右手で自分の名刺をさし出し、左手で相手の名刺を受け取ります。そして、引き寄せながらもう片方の手をそえ、両手で持ちます。受け取った名刺はすぐにしまわず、しばらくテーブルの上においておきます。名刺の上に書類がのらないようにします。

 

東京法令出版p.28

「はじめまして」

ビジネス上、立場が下の人が先に名乗りながら、相手の名刺入れの上に名刺を差し出す。

下位者「私、(〇〇社の)〇〇と申します。よろしくお願いいたします」

上位者「ちょうだいいたします」

次に立場が上の人が、名乗りながら名刺を渡す。

下位者は、名刺入れの上で両手で受け取る。

〈立場を替えて同じセリフ〉

上位者「私、(〇〇社の)〇〇と申します。よろしくお願いいたします」

下位者「ちょうだいいたします」

もらった名刺の基本的な持ち方は、名刺入れの上に重ねて、両手で胸の高さ、身体の中央で持つ。席をすすめられたときは、まず名刺を机の上に置いてから座る。

 

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』では、以下のように、「2人で名刺交換する場合」と「複数で名刺交換する場合」とに分けて記述しているところが特徴的である。この記述は、日本人母語話者も参考になる。

 

(2人で名刺交換する場合)

文字を相手に向ける。

差し出すときももらうときも必ず両手で行う。

「〇〇商事の△△と申します。よろしくお願いいたします」と自己紹介しながらおじぎをして渡す。

もらう側はおじぎをして両手で受け取り「ちょうだいします」という。できれば、名刺入れの上でいただくようにする。

テーブルについたら名刺入れの上に乗せておく。

(複数で名刺交換する場合)

1.あなたの上司と担当者の上司

2.あなたの上司と担当者

3.あなたと担当者の上司

4.あなたと担当者

 

2.3ビジネス情報入手の方法

 

ビジネス情報の入手の方法は、三社とも「ビジネスとコミュニケーション」の項目で扱っているが、その方法には大きな違いがある。以下、その違いを整理してみる。

 

【暁出版】pp.213-223

(情報入手の方法)

人的ネットワーク・マスメディア(新聞・書籍・雑誌・カタログ・フリーペパー・テレビ・ラジオ・携帯電話・インターネット・電子掲示板・ブログ・投稿サイト)

(情報の活用)

情報の選択・分析、情報の管理とファイリング、情報の信頼性、

情報のセキュリティ管理、オフィスのセキュリティ

 

実教出版pp.192-199

(情報入手の方法)

インターネット・新聞・書籍・雑誌・白書・統計資料・顧客データ・

営業マニュアル

(情報の活用)

自社内での情報の活用・顧客に対する情報の活用

 

東京法令出版pp.38-50

(情報入手の方法)

人からの収集(人脈づくり)・メディアからの収集(テレビ・新聞・書籍・雑誌)・インターネットからの情報収集(検索エンジン・ブログ・データベース・統計情報)

(情報の活用)

情報の分析(データの分類・整理・解釈)・情報の伝達・情報の保管

 

特に、情報の活用の項目に差があることがわかる。暁出版はセキュリティに力を入れた記述であるのに対して、東京法令出版はデータとしていかに活用するかに力点が置かれている(注6)。

 

2.4ビジネスとコミュニケーション

 

「ビジネス基礎」で扱われている共通の項目としては、「挨拶・姿勢・身だしなみ・ことばづかい・表情・聞き方と話し方・電話応対・訪問と来客応対」などのビジネスマナーに重点を置いて記述がなされている特徴があげられる。

実教出版には、ロールプレイングとして、「電話の応対」(p.190)と「来客の応対」(p.191)が掲載されている。また、具体的な文例はないものの、実習例として「電子メールの使い方」(p.210)も掲載している。

暁出版と東京法令出版は、ビジネスの心構えという節が立項され、倫理観・責任感・協調性を説いている(暁出版p.187、東京法令出版pp.18-19)。それに対して、実教出版は、ビジネスのコミュニケーションの重要性を記述している(p.172)。

また、暁出版にはマネジメントサイクル(PDCAサイクル・管理の循環)の記述、東京法令出版には良好な人間関係の記述があることが特徴的である(注7)。

 

【暁出版】p.186

どのような組織形態でも、日常のビジネスは、主任や係長などのチームリーダーの下、協働関係を形成して進められる。その際、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(Action)(改善)の循環を考え、ビジネス活動を進めていく必要がある。

 

東京法令出版p.30

    良好な人間関係

1.相手の立場に立って考える 2.相手の長所をみつける

3.不必要な自己主張はしない 4.うわさ話はしない

5.自己の感情をおさえる 6.仕事以外の行事にも進んで参加する

 

3.計算の記述

 

実教出版は「第6章売買に関する計算」(pp.150-170)、東京法令出版は「第5章ビジネスと売買取引」の「第4節ビジネス計算の基礎」(pp.184-211)において、それぞれビジネスに必要な計算を説明しているが、暁出版は「第2章ビジネスと売買取引」の「第2節ビジネス計算の基礎」(pp.39-59)の「1.ビジネス計算と電卓の利用」という、電卓を中心に扱う項目を立項していることは大きな特徴である。これは、暁出版は珠算関連の書籍を手掛けていることにも関連していると考えることができる。

 

4.日本語教育のビジネスコミュニケーション

 

4.1「BJTビジネス日本語能力テスト」

 

公益財団法人・全国商業高等学校協会の実施している「商業経済検定」と「ビジネスコミュニケーション検定」がある(注8)。「商業経済検定」の試験科目(「ビジネス基礎」「ビジネス経済」「ビジネス経済応用」「経済活動と法」「マーケティング」)の中に「ビジネス基礎」の試験も課されているが、その中に「ビジネスコミュニケーション」の分野は過去5年のうちで2題しか出題されていない。この分野については、同様に公益財団法人・全国商業高等学校協会が実施している「ビジネスコミュニケーション検定」の問題の方に反映されているようである。この「ビジネスコミュニケーション検定」は、総合科目としての「ビジネス実務」の内容を反映したものであり、「ビジネス実務」の内容は「ビジネスコミュニケーション検定」「秘書検定」の対策としても活用できる構成になっており(注9)、ビジネス文書(注10)、メール文、手紙文、会話のロールプレイなども掲載されており、日本語教育の「ビジネス日本語」との整合性も高い。

「BJTビジネス日本語能力テスト」準拠として編集された、本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』では、ロールプレイングの実例が豊富であり、ビジネス文書・手紙文・メール文・場面ごとの会話文の実例が多いことが特徴的である。「BJTビジネス日本語能力テスト」は現実のビジネスシーンに即した言語運用を測定するものであり、実践的だと言える。過去問題ではビジネス場面を重視した問題である。その試験は、第1部から第3部からなり、それぞれが3つのセクションに分かれている。「ビジネスコミュニケーション検定」よりも資料・図表などの読み取り問題が多いのが特徴的である。以下、公益社団法人・日本漢字能力協会編(2017)pp.84-86のまとめを示す。

 

第1部(聴解テスト)

セクション1(場面把握問題)

ビジネスにおけるコミュニケーションシーンを見て、「場所、人、ものを参考にして、どういうことが行われている場面なのか」を把握する能力、および、それに該当する音声情報を聴き分ける能力を測る。

セクション2(発言聴解問題)

ビジネスコミュニケーションの場にふさわしい対応、あるいは、人間関係や場面に合った表現をする能力を測る。

セクション3(総合聴解問題)

    ビジネス場面で、会話・独話の内容を聴き取って、情報の意味を理解する能力、および、日本語による課題を達成するための総合的な聴解力を測る。

第2部(聴読解テスト)

セクション1(状況把握問題)

自分が直接関与していない会話の内容を聴き取って、その情報の意味を理解する能力を測る。

セクション2(資料聴読解問題)

文書や図表を見て、音声によって指示された課題を達成する能力を測る。

セクション3(総合聴読解問題)

    ビジネス場面で、日本語を使って課題を達成する際、聴解力と読解力がバランスよくあるかどうかを測る。

第3部(読解テスト)

セクション1(語彙・文法問題)

日本語の語彙や文法の知識が運用できるかどうかを測る。

セクション2(表現読解問題)

場面や状況、人間関係に応じた適切な表現が使えるかどうかの能力を測る。

セクション3(総合読解問題)

      文書やメールを読み取って、得られる情報の意味を理解する能力、および、日本語による課題を達成する能力を測る。

 

「ビジネスコミュニケーション検定」は理論的、「BJTビジネス日本語能力テスト」は実践的と言える。そのため、「BJTビジネス日本語能力テスト」や『ビジネス日本語マスターテキスト』の学習をしたのちに、「ビジネスコミュニケーション検定」や『ビジネス基礎』の学習を行うなどの相互補完的に学ぶことも大切ではないだろうか。

 

4.2日本語教育の中でのビジネス日本語教育

 

西尾珪子(1994)によると、1970年代から外国人ビジネス関係者の日本語教育に取り組んできたという。特に、日本語教育における「コースデザイン」の研究が急速に推進されたのは、ビジネス関係者の教育に負うところが多いと述べている。高見澤孟(1994b)では、ビジネス・コミュケーションの特性を以下の4つにまとめている(注11)。

 

(1)「仕事のため」の公的な話し合いである。

(2)参加者は「相互理解」に達する必要がある。

(3)主張の違いは、話し合いを通して調整される。

(4)合意された「相互理解」が「仕事」の内容となる。

 

近藤彩(2004・2007)では、ビジネス・コミュニケーション研究は、4つの焦点で行われてきたと述べている。近藤彩(2004・2007)の述べる4つを整理してみると以下のようになる(注12)。

 

第1・・ビジネス活動の研究

主に質問紙による量的研究

第2・・ビジネスのやり取りの研究

商談や会議、セールス場面を扱った質的研究

日本人ビジネス関係者を対象とした研究

外国人ビジネス関係者を対象とした研究

日本人と外国人の双方を対象とした研究

接触場面の研究・比較対象研究)

第3・・日本語学習に関する研究

ビジネス活動の現場の視点を日本語学習に取り入れた研究

授業報告・実践報告・待遇表現の研究

(敬語表現・婉曲表現・語彙調査・経済分野・ビジネス文書・企業ニーズの会話教材など)

第4・・これまでの提言・助言

早い段階から日本語によるビジネス・コミュニケーションの役割や課題を指摘した内容

 

近藤彩(1998・2007)は、量的研究と質的研究を行い、外国人ビジネス関係者は、「不当な待遇」「仕事の非効率」「仕事にまつわる慣行の相違」「文化習慣の相違」の4つの問題点を感じている点を指摘している。

先行研究の中で、それまで個別的に論じられていた「ビジネス日本語」が体系的なものになっていくのは、管見に入るかぎり、1994年に続けて刊行された以下の3点である。1994年にビジネス日本語の方向性が定まったと言えそうである。

 

1.『外国人ビジネス関係者のための日本語教育Q&A』文化庁国語課・1994年8月

2.『ビジネス日本語の教え方』高見澤孟・アルク・1994年9月

3.『日本語学 特集 ビジネス・コミュニケーション』明治書院・1994年11月

 

1では、(社)国際日本語普及協会の、「職場の外国人社員にどの程度まで日本語を期待しますか」という調査を引用している。その調査では、以下のようになっている。

 

1コミュニケーションが円滑になる程度の日常会話          35.1%

2簡単な仕事の打ち合わせができる程度の日本語             33.7%

3会議や情報交換も支障のない程度の日本語                    12.3%

4仕事もできるだけ日本語でしてほしい                          7.7%

5あいさつだけでいい                                                    5.3%

 

1、2、3の項目で全体の81.1%を占めている。この項目は、日本人母語話者にも必要な項目ではないだろうか。

 

結び

 

学習指導要領の改訂に伴って、高等学校商業科で新設された基礎科目である『ビジネス基礎』は、出版社ごとに重要語句の選定が異なり、経営の視点、倫理的な記述、計算、情報の活用などの項目での記述の特徴が出ている。しかし、全般的に実践的なロールプレイが少なく、経済学・経営学の理論的な側面が強い。それは「商業経済検定」の試験科目「ビジネス基礎」にも反映されている。また、「ビジネスコミュニケーション検定」は、総合科目である『ビジネス実務』の内容に準拠したものであり、『ビジネス実務』は秘書検定の対策にもなるように配慮されている。そのため、『ビジネス実務』と「ビジネスコミュニケーション検定」は、実践的な「BJTビジネス日本語能力テスト」との整合性がある。そのため、「BJTビジネス日本語能力テスト」や『ビジネス日本語マスターテキスト』の学習をしたのちに、「ビジネスコミュニケーション検定」・『ビジネス実務』や「商業経済検定」・『ビジネス基礎』の学習を行うなど相互補完的に学ぶことも大切ではないだろうか。それはまた、日本人母語話者にとっても有益ではないだろうか。日本人向け、外国人向けという区別にとらわれることなく、両方の活用を行う必要があるのではないか。

一般のビジネス書は膨大であり個別的なため、何を基準に学習すればよいのか、非常に悩ましい面がある。そのためにも、高等学校商業科の『ビジネス基礎』をはじめとする教科書や、全国商業高等学校協会の実施している各種検定を参照してみるのも有益なのではないだろうか。

 

(注)

1

「ビジネス基礎」という科目は1999年の学習指導要領から設置された科目である。番場博之(2010)は、「それまで細切れに独立的に教授してきた教育のなかに、総論的な科目を導入しようとしたことの意義は学問体系においても教育体系においても評価されるものであり、また導入的であるという意味で商業科の置かれている現実に即したものであった」(p.109)と述べている。

2

それぞれどのような出版物が多いのかを調査してみると、およそ以下のようになる。

実教出版・・各種検定対策

暁出版・・珠算・電卓・経営理念

東京法令出版・・ビジネス法務関連

3

公益財団法人日本漢字能力検定協会(2017)『BJTビジネス日本語能力テスト 公式模擬テスト&ガイド』には、「BJTで測定する能力」として以下の7つが示されている。

1.場面・状況を認識する力

2.情報の意味・意図を読み取る力(受容)

3.課題に合った対応力(表現・行動)

4.ビジネス文書にかかわる処理能力

5.言語の基礎力(語彙・文法、敬語・待遇表現)

6.未知の語句に対する処理能力

7.日本的商習慣への異文化調整能力                                    (p.80)

4

コミュニケーション言語学としては、グライス、リーチ、オースティン、サールなどの研究が知られているが、ビジネスの場合実践重視であるため、日経ビジネスアソシエ(2015)では、コミュニケーションやビジネス心理学の定番として、デール・カーネギー『人を動かす』、スティーヴン・コヴィー『7つの習慣』なども紹介され、近年では、リチャード・バンドラーとジョングリンダーの共同研究による、言語学と心理学との融合からなるNLPにも注目が集まっている。また、心理学者でありながら、ダニエル・カーネマンノーベル経済学賞を受賞したことで、その主著『ファスト&スロー』をはじめとするビジネス心理学が広まった。日本の文化的な側面に配慮したものとしては、芳賀綏(1963)、石黒圭(2015)などがある。

5

日本のビジネス倫理や経営理念について、土屋喬雄(1964・1967)、柘植尚則(2014)を参考に簡略化してまとめると以下のようになる。

(近世)井原西鶴『日本永代蔵』・・金持ちの心得

鈴木正三『万民徳用』・・仏教と経済

石田梅岩『都鄙問答』・・町人学者による心学

(近代)澁澤栄一『論語と算盤』『論語講義』・・道徳経済一致論

(現代)松下幸之助・・水道方式・船場の商人の教え

稲盛和夫・・東洋の帝王学・仏教・儒教

柳井正・・ドラッカー理論

また、堺屋太一(2006)は、リーダーとして以下の12名をあげている。

聖徳太子光源氏源頼朝織田信長石田三成徳川家康石田梅岩

大久保利通渋沢栄一マッカーサー池田勇人松下幸之助

この12人の選定には特徴があり、特に何もしないリーダーを「光源氏型」、次々に推し進めるリーダーを「信長型」としている。さらに、五代友厚渋沢栄一「日本的協調主義」と岩崎弥太郎「進歩的個人主義」とを対比させいる。渋沢栄一の「論語的発想」の限界点も指摘している。「渋沢型」と「岩崎型」という対比の経営者の分類行っている。

「渋沢型」・・本田宗一郎松下幸之助

「岩崎型」・・石坂泰三・土光敏夫

企業家史の流れとして、PHP叢書「日本の企業家13人」、平野隆(2013)、林廣茂(2019)を参考に示してみると以下のような流れになる。

(江戸後期)

二宮尊徳・・資本主義の精神を説く

(明治)

岩崎弥太郎・・三井財閥を興す

安田善次郎・・安田財閥を興す。運・鈍・根・金・健

澁澤榮一・・500もの会社を興す。渋沢論語。道徳経済一致論。

豊田佐吉・・トヨタグループを創業する

三野村利左衛門・広瀬宰平・五代友厚・益田孝・日々翁助・金子直吉・福沢桃介

(昭和)

松下幸之助・・水道哲学松下電器パナソニック)を興す

土光敏夫・・東芝の再建などで活躍

井深大・・ソニーを創業する

盛田昭夫・・ソニーを創業する

中内功・・安売り哲学でダイエーグループを創業

松永安左衛門・石田退三・本田宗一郎・坪内寿夫・小倉昌男江副浩正

(現在)

稲盛和夫・・京セラ創業者

柳井正・・ファーストリーディング創業者

三木谷浩・・楽天創業者

鈴木敏文澤田秀雄南部靖之孫正義

6

ビジネススキルや社会人の学習法の元祖的な著作として、梅棹忠夫(1969)の『知的生産の技術』(岩波新書)があるが、藤井孝一(2016)は、ビジネススキルとして10の分野(思考法・発想法と読書術・ビジネス基礎力・自己管理法・コンセプト設計と戦略・コミュニケーション術・マネジメント法・人生設計術・自己実現法・成功哲学)にわけて、参考書を紹介している。

7

ビジネスコミュニケーション、人間関係、成功哲学書としても読まれてきたデール・カーネギー『人を動かす』では、以下の原則をあげている。

人を動かす三原則・・1.盗人にも五分の理を認める・2.重要感を持たせる・3.人の立場に身を置く

人に好かれる六原則・・1.誠実な関心を寄せる・2.笑顔を忘れない・3.名前を覚える

4.聞き手にまわる・5.関心のありかを見抜く・6.心からほめる

人を説得する十二原則

1.議論を避ける・2.誤りを指摘しない・3.誤りを認める・4.穏やかに話す

5.「イエス」と答えられる問題を選ぶ・6.しゃべらせる・7.思いつかせる

8.人の見になる・9.同情を寄せる・10.美しい心情に呼びかける

11.演出を考える・12.対抗意識を刺激する

人を変える九原則

1.まずほめる・2.遠まわしに注意を与える・3.自分の過ちを話す・4.命令をしない

5.顔をつぶさない・6.わずかなことでもほめる・7.期待をかける・8.激励する

9.喜んで協力させる

8

商業経済検定・ビジネスコミュニケーション検定・ビジネス文書実務検定・英語検定・簿記実務検定・情報処理検定・会計実務検定・珠算電卓実務検定を実施している。

9

「ビジネス基礎」と「ビジネス実務」という科目に注目した高大連携の論文として、関由佳里・山野邦子・佃昌道・高塚順子・水口文吾(2012)がある。特に、ビジネスに必要な英会話、文書の作成、「ビ実践的なビジネスマナーやコミュニケーションを取り入れた点にある「ビジネス実務」(大きくは、オフィス事務・ビジネスと珠算、ビジネス英語の内容から成る)に注目し、高松大学の秘書科の課程と比較している。

10

ビジネス文書については、諸星美智直(2011・2012a・2012b・2014・2016)の一連の研究がある。

主な文章読本としては、古くは、芳賀矢一五十嵐力谷崎潤一郎菊池寛川端康成三島由紀夫中村真一郎丸谷才一井上ひさし斎藤美奈子小谷野敦、布施英利、中条省平などがある。また、随意選第の綴り方教授の流れとしては、国語教育の分野では、樋口勘次郎、友納友次郎、芦田恵之助、小砂丘忠義、鈴木三重吉、国分一太郎豊田正子大村はま無着成恭などがいる。語学的な立場から、時枝誠記、市川孝、永野賢、森岡健二のものがある。しかし、現代の文章は、文章心理学の立場の、波多野完治、堀川直義、安本美典、中村明の研究、パラグラフ・ライティングからの流れのアカデミック・ライティング、ビジネス文書の流れに統一されつつあるようである。

11

また、高見澤孟(1994b)は、日本語の「あいまいさ」と「難しさ」について、以下の4点を示している。

(1)主語が明示されないことが多い。 (2)語順があいまい

(3)日本語の立場志向 (4)待遇表現の使い分け

さらに提案として、外国人とのコミュニケーションを容易にするために「言語メッセージ」「非言語メッセージ」「文脈」に注意する必要があると述べている。

〈発信活動における言語メッセージ〉

(1)明瞭な発音 (2)簡潔な文 (3)具体的な指示内容のある「ことば」 

(4)接続詞による文の関連明示 (5)適切な言い換え (6)実例提示

(7)結論の明示 (8)遠慮表現の抑制

〈発信活動における非言語メッセージ〉

(1)受容的な態度/相手をリラックスさせる態度 (2)にこやかな表情

(3)具体的な形態を示すジェスチャー (4)文化、習慣に基づくジェスチャーの抑制

〈発信活動における文脈〉

(1)文脈依存を軽減 (2)言語による明示的指示

音声面でのわかりやすさとしては、秋山和平(1994)が「わかりやすさ」と「的確さ」として以下の4要素を述べている。

1.情報提示のための話しの組み立て2.話体の簡潔さ3.音声化の明快さ4.聞き取り能力の適正化

12

近藤彩(2004・2007)は、この中の第3の研究の中から生み出された、高見澤孟(1994a)『ビジネス日本語の教え方』は、それまでの豊富な経験をもとにしたもので、教育現場に示唆を与えた画期的なものとして評価している。内容的には、教授法を中心に述べたものであり、巻末には必要なビジネスの経済・経営分野についての参考文献が日経文庫を中心に紹介されている。その一方で、堺憲一(2010)は、経済小説から経済学の知識を得るという試みを説き、その流れの研究に諸星美智直(2013)の研究がある。佐高信(2004)を参考に以下に主な経済小説をまとめてみる。

(中世)

徒然草』『人鏡論』

(近世)

『長者教』

井原西鶴『日本永代蔵』『世間胸算用

(昭和)

城山三郎清水一行高杉良

(平成)

池井戸潤幸田真音

 

(参考文献)

秋山和平(1994)「ビジネス・コミュニケーションにおける『話しことば』の役割と課題」『日本語学』13巻11号

池田伸子(1996)「日本人ビジネスマンの話し言葉における語彙調査-ビジネスマン用日本語教育システム開発の基礎として-」『日本語教育』88号

石黒圭(2015)『心を引き寄せる 大人の伝え方集中講義』サンクチュアリ出版

井上史雄(2007)『その敬語では恥をかく』PHP

川内満(2014)「ビジネス教育と利潤追求-ビジネス教育論の構築に向けて-」『修道商学』55巻1号

河田美恵子(2006)『ビジネス文書と日本語表現』学文社

木下是雄(1994)「これからのビジネスコミュニケーション」『日本語学』13巻11号

グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』東洋経済新報社

駒田純久(2013)「商業教育の変容と商人像」『商学論究』60巻4号

近藤彩(1998)「ビジネス上の接触場面における問題点に関する研究-外国人ビジネス関係者を対象として」『日本語教育』98号

近藤彩(2004)「日本語教育のためのビジネス・コミュニケーション研究」『言語文化と日本語教育』11号増刊特集号

近藤彩(2007)『日本人と外国人のビジネス・コミュニケーションに関する実証研究』ひつじ書房

近藤彩(2014)「日本語非母語話者と母語話者が学びあうビジネスコミュニケーション教育-ダイバーシティーの中で活躍できる人材の育成に向けて」『専門日本語教育研究』第16号

堺憲一(2010)『この経済小説が面白い』(ダイヤモンド社

堺屋太一(2006)『日本を創った12人』PHP文庫

佐高信(2004)『経済小説の読み方』光文社

ティーブン・R・コヴィー(【原書1989】ジェームス・スキナー 河西茂訳1996)『7つの習慣』キング・ベアー出版

関由佳里・山野邦子・佃昌道・高塚順子・水口文吾(2012)「ビジネス実務教育における高大連携のあり方」『研究紀要』第56・57号(高松大学高松短期大学

高見澤孟(1994a)『ビジネス日本語の教え方』アルク

高見澤孟(1994b)「ビジネス・コミュニケーションと日本語の問題」『日本語学』13巻11号

島弘司(1994)「『外国人ビジネス関係者のための日本語Q&A』を紹介する」『日本語学』13巻11 

  号

田丸淑子(1994)「ビジネス・スクールの日本語教育」『日本語学』13巻11号

ダニエル・カーネマン(【原書2011】村井章子訳2012)『ファスト&スロー』早川書房

ダニエル・カーネマン(【原書2011】村井章子訳2012)『ファスト&スロー』早川書房

デール・カーネギー(【原書1936】山口博訳2016)『人を動かす』創元社

デール・カーネギー(【原書1948】香山晶訳2016)『道は開ける』創元社

柘植尚則(2014)『プレップ経済倫理学』弘文堂

土屋喬雄(1964)『日本経営理念史』日本経済新聞社

土屋喬雄(1967)『続日本経営理念史』日本経済新聞社

西尾珪子(1994)「ビジネスコミュニケーションと日本語教育」『日本語学』13巻11号

日経ビジネスアソシエ(2015)『仕事のための5つの基礎力』日経BP

日経ビジネスアソシエ(2016a)『10分でわかるビジネス教養』日経BP

日経ビジネスアソシエ(2016b)『ビジネス基礎力の教科書』日経BP

芳賀綏(1963)『自己表現術-話が下手では話にならぬ-』光文社

林廣茂(2019)『日本経営哲学史筑摩書房

番場博之(2010)『職業教育と商業高校』大月書店

平野隆(2013)「福沢諭吉と『福沢山脈』の経営者」『近代日本と福澤諭吉慶応義塾大学出版会

細川英雄(2019)『対話をデザインする-伝わるとはどういうことか-』筑摩書房

諸星美智直(2011)「ビジネス文書におけるポライトネス・ストラテジーについて」『国学院大学日本語教育研究』第2号

諸星美智直(2012a)「日本語ビジネス文書学の構想-研究分野と研究法-」『国語研究』第75号

諸星美智直(2012b)「ビジネス文書における『あしからず』の機能-ビジネス文書文例集を資料として-」『国学院大学日本語研究』3号

諸星美智直(2013)「ビジネス日本語教材としての経済小説」『国学院大学日本語教育研究』3号

諸星美智直(2014)「ビジネス文書における副詞『あらかじめ』の用法-企業ウェブサイトと内容証明郵便を中心に-」『国学院大学日本語研究』5号

諸星美智直(2016)「近代ビジネス文書史における候文と口語文と」『国語研究』79号

水谷修(1994)「ビジネス日本語を考える」『日本語学』13巻11号

 

(テキスト)

『ビジネス基礎 新訂版』実教出版・2018年・7実教商業334

『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版・2018年・190東法商業335

『新ビジネス基礎』暁出版・2018年・144暁商業302

本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』IBCパブリッシング

公益社団法人・日本漢字能力協会編(2017)『BJTビジネス日本語能力テスト・公式模擬テスト&ガイド』三松堂株式会社

 

【謝辞】

本発表にあたり、髙沢修一先生(経営学)、由川稔先生(経済学)から貴重なご意見をいただきました。御礼申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考資料1

 

河田美恵子(2006)『ビジネス文書と日本語表現』学文社

(目次)

1ビジネス文書の作成に必要な知識

文書の重要性・文書の果たす役割・文書の分類・文書作法の心

2わかりやすく正確に文章を書くための文章作法

文章の構成・正確な文章表現・文体の統一・現代表記法・縦書きと横書き

3敬語表現と敬称

敬語の分類と使い方・敬語表現・宛名の敬称

4日本語表現

話し言葉と書き言葉・言葉遣い・心遣いを表す言葉・断りの言葉

ビジネス文書にとってマイナスイメージの言葉・電報文

5ビジネス文書の能率的な書き方

社内文書の形式と書き方・社外文書の形式と書き方

封筒・返信はがきの書き方と使い方

6文書表現のポイントと留意点

取引上の文書・社交・儀礼的文書・慶弔の文書と忌み言葉

7ビジネスEメールの作成と発信に関する作法

ビジネス環境の変化・Eメールの特性・Eメールの言葉遣い

Eメールの基本的書き方・その他の留意点

8文書の取り扱い

受信、発信文書の取り扱いと通信業務・郵便の基礎知識・押印の知識・押印の仕方

 

 

参考資料2

 

ビジネスの世界では欠かすことのできない「敬語」の項目であるが、井上史雄(2007)『その敬語では恥をかく』(PHP)が実践的に書かれており、便利である。その概要を以下に示しておく。

 


謙譲語

 

○お待ちください。

○お待ちになってください。

△お待ちしてください。

 

○係に お聞きになってください。

×係に お聞きしてください。

○係に お聞きください。

 

×当方に お電話してください。

○当方に お電話ください。

△当方に お電話なさってください。

 

×当社を ご利用していただきたい―

○当社を ご利用いただきたい―

 

○ご注意くださるよう お願いします。

○ご注意なさるよう お願いします。

×ご注意するよう お願いします。

 

△紹介してください。

×ご紹介してください。

○ご紹介ください。

 

△お邪魔の際は

○お邪魔した際は

 

×あの方が ご出演していた

×あの方が 出演されていた

×あの方が 出演しておられた

○あの方が 出演していらっしゃった(いらした)

 

○お乗りになりますか

×お乗りいたしますか

 

 

○窓口で お聞きください。

○窓口で お聞きになってください。

×窓口で うかがってください。

 

×拝見してください

○ご覧ください

○ご覧になってください

 

○どうか なさいましたか。

○どうか しましたか。

×どうか いたしましたか。

△どうか されましたか。

 

×中村課長は おられますか。

×中村課長は おりますか。

○中村課長は いらっしゃいますか。

 

×大阪には いつ 参りますか。

×大阪には いつ 参られますか。

○大阪には いつ いらっしゃいますか。

 

 

 

△電車が まいります

○電車が きます

 

×いただいてください

○お受けとりください

 

×粗茶ですが いただいてください。

○粗茶ですが お上がりください。

○粗茶ですが 召し上がってください。

 

○うちの子に やっていいですか。

△うちの子に あげていいですか。

 

○貴社には 部長が うかがいます。

×貴社には 部長が いらっしゃいます。

○貴社には 部長が 参ります。

○貴社には 部長が 参上(いた)します。

 

×社長が 申されるように

○社長が おっしゃるように

×社長が 申すように

 

○社長が 部長に 下さるんです。

△社長が 部長に お上げになるんです。

×社長が 部長に 差し上げるんです。

 

△お休みを いただいております。

△休んで おります。

○休ませて いただいております。

○休みを いただいております。

 

○ランチには コーヒーが 付きます。

×ランチには コーヒーが お付きします。

 

△祖父が 亡くなりまして

△祖父が 死にまして

△祖父が 他界(永眠)しまして

○祖父を 亡くしまして

 

 

尊敬語

 

×いらっしゃられる

○いらっしゃる

 

○おっしゃる

×おっしゃられる

 

×お召し上がりになる

○召しあがる

 

○お帰りになりました

×お帰りになられました

 

×ご覧になられる

○ご覧になる

 

○お宅に 犬が いる。

×お宅に 犬が いらっしゃる。

 

△お宅で いらっしゃいますか。

△お宅で ございますか。

○お宅 ですか。

○お宅 でしょうか。

 

○紅茶は いかがですか。

×紅茶を 飲みたいですか。

 

○ご乗車になれません

×ご乗車できません

 

×ご利用できます

○ご利用になれます

 

△ご利用される

○利用される

○利用なさる

 

×ご出発される

○出発される

 

△社長が お話しされる。

○社長が お話しになる。

 

×ご記入されてください

○ご記入ください

×記入されてください

○記入してください

 

○ご自由に お取りください

×ご自由に 取られてください

 

×お食べに なりますか

○召し上がりますか

○お上がりに なりますか

×お召し上がりに なりますか

 

○言われますか

○おっしゃいますか

×お言いになりますか

×おっしゃられますか

 

△おやりに なる

○なさる

 

 

丁寧語・美化語・その他

 

○あります

△ありますです

 

△美しいです

○美しゅうございます

 

○用意してあります

△用意してございます

 

○召し上がり方

△お召し上がり方

 

△お足

○おみ足

 

○ご入学

△お入学

○入学

 

×おビール

○ビール

 

○求めやすい

△お求めやすい

○お求めになりやすい

 

×お分かりにくい

○お分かりになりにくい

○分かりにくい

 

△お着物

○お召し物

○着物

 

△長ったらしい ご説明で

○長ったらしい 説明で

 

○あしたは 仕事 休みです

△あしたは お仕事 お休みです

 

△(5000円)お預かりします

○(5000円)いただきます

 

○5000円を(お預かりします)

△5000円(お預かりします)

×5000円から(お預かりします)

 

○ご注文は

×ご注文のほうは

 

×トーストになります

○トーストでございます

 

○禁煙席で よろしいでしょうか?

×禁煙席で よろしかったでしょうか?

 

×4月1日生まれじゃないですか

○4月1日生まれなんですけど

 

△司会を つとめさせていただきます

○司会を つとめます

 

○歌わせていただきます

×歌わさせていただきます

 

○母は おりません

×お母さんは いません

 

×鈴木さんは・・

○鈴木は・・

×鈴木社長は・・

○課長の鈴木は・・

 

△田中は・・

△田中先生は・・

○田中教諭は・・

 

×お名前様を いただけますか

○お名前を いただけますか

○お名前を うかがえますか

 

×私 作る人

△私 作る者

 

×ただで ございます

○無料で ございます