大学入試・国語の学習法(9月ー12月)

国語の学習法(9月-12月)

 

0.前提

 過去問・模試・授業で扱った事柄を中心に、出題傾向に合わせて計画を立てることが大切です。あくまでも、参考書・問題集は弱点補強です。注意点としては、「文学史が出題されているか」、「文法問題の難易度は高いか」、「基礎知識が出題されているか」、「近代文語文が出題されているか」などです。

 

1.現代文

2.1重要語・漢字

現代文の語彙力をつけるために、漢字の問題集と重要語を示した本を読んでおくと、現代の入試問題が読みやすくなり、たいへん効果的です。使いやすい現代文重要語の用語集を読み、現代文の復習の際に「辞書引き学習法」を行い、漢字も問題集で練習し、意味も辞書で確認するようにしましょう。

(例)『頻出漢字と基礎知識』(河合出版)

『ことばはちからだ 現代文キーワード』(河合出版)

『現代文キーワード読解』(Z会

2.2基礎知識・文学史・口語文法

東京書籍、浜島書店、第一学習社などから発売されている『国語便覧』は、入試問題の際の参考として利用されています。やる気が出ないときや、息抜きの代わりとして、『国語便覧』を読むようにすると、たいへん効果的です。また、文学史は、薄めの演習形式の問題集をやるとよいでしょう。日本史受験の場合には、文化史を学習すると、効果的です。また、口語文法の問題も国語便覧を読む程度で対応できます。

(例)『ぶっつけ日本文学史』(文英堂) 『speed攻略10日間 文学史』(Z会

2.3読解

自分の使いやすいと思う解説の附いた問題集(入試問題を題材にしたもの)をやるようにしましょう。解説が多いものと、問題が多いものとがあります。受験の際には、勉強することが多く、読書量が不足気味になります。それを補うためにも、入試問題という精選された現代文の文章を読み込むことで、読書の代わりとする気持ちが大切です。

近代文語文の場合、擬古文系統と漢文訓読系統のものがありますが、明治時代の明治文語文は、知識人が好んだ漢文訓読系統のものが一般的です。漢文の基礎を学習しておけば、過去問を音読して復習して慣れることが大切です。不慣れであるなら、駿台文庫から近代文語文に慣れるための本も発売されています。

また、融合問題は、古典を現代文で解説するタイプのものがほとんどなので、現代文から古典を読解するとよいと思います。これは過去問で対応できます。

(例)『入試現代文へのアクセス(基本編)』(河合出版)

『実践演習・現代文(基礎・標準)』(桐原書店

『マーク式基礎問題集 現代文』(河合出版)

 

2.古文

2.1文法

文法の本は、問題形式のドリルで一冊仕上げてあれば、復習で対応できます。ただし、難関や文学部で細かい文法問題が出題される大学を受けるときには、追加でハイレベルな問題集をやるとよいと思います。

(例)『やさしくわかりやすい古典文法』(文英堂)

『古典文法基礎ドリル』(河合出版)

『古典文法トレーニング』(河合出版)・・難関・・

『富井の古典文法をはじめからていねいに』東進ブックス

『古文ヤマのヤマ』(学研)

『望月の古典文法講義の実況中継』(語学春秋社)・・難関・・

2.2単語

気に入った古文単語の本をマメに辞書の代わりにめくるようにしてみましょう。その際に、例文やコラムもすべて読むようにしてみましょう。そうすることで、古文単語のニュアンスがつかめるようになってきます。単語集にないものは、古語辞典を引いて追加でメモ帳をつくると効果的です。

(例)『マドンナ古文単語』(学研)

   『古文単語565』(アルス工房)

2.3基礎知識・文学史・和歌

『国語便覧』は、入試問題の際の参考として利用されています。やる気が出ないときや、息抜きの代わりとして、『国語便覧』を読むようにすると、たいへん有益です。日本史の「しきたりや文化」などを学習すると効果的である。

和歌の出題は、「百人一首」に類似したものからの出題が多いので、1-62までをじっくりと、修辞技巧・語句・文法を熟読しておくとよいでしょう。特に、1-30は、和歌の基本が凝縮されているので、暗記したほうがよいと思います。

 (例)『マドンナ古文常識』(学研)

『原色カラー版 小倉百人一首』(文英堂) 『speed攻略10日間 和歌』(Z会

    『speed攻略10日間 文学史』(Z会

あさきゆめみし』(講談社漫画文庫) 『天上の虹』(講談社漫画文庫)

『平安女子の元気な生活』(岩波ジュニア新書)

『平安男子の元気な生活』(岩波ジュニア新書)

2.4読解

文法のドリル形式のテキストを一冊終えたら、自分にとって使いやすい入試問題を題材に編集された問題集をやるようにしましょう。入試問題から学ぶ姿勢が大切です。

(例)『実践演習・古文(基礎・標準)』(桐原書店

『古文上達・基礎編』(Z会) 『基礎古文問題精講』(旺文社)

『マーク式基礎問題集 古文』(河合出版)

 

3.漢文

3.1句形

 漢文は、句形を仕上げたら、過去問を解いていけば慣れるのが一番の早道です。どの出版社のものでもよいので、一冊仕上げましょう。苦手な場合は、講義型参考書を使うとよいと思います。

(例)『やさしくわかりやすい漢文句形』(文英堂)

『漢文句形ドリルと演習』(河合出版)

   『漢文早覚え即答法』(学研)

   『漢文ヤマのヤマ』(学研)

3.2語句

漢文単語は、句形のドリルや解説書の付録、教科書の脚注や国語便覧の漢文単語を読むように心がけるとさらに理解が深まります。

(例)『漢文句形とキーワード』(Z会

3.3基礎知識・文学史漢詩(中国古典詩)

『国語便覧』を読むようにすると、背景知識や文学史漢詩の説明が施されており、役に立ちます。漢詩の出題率が高く、漢詩に慣れたいのであれば、漢詩の考え方に慣れたいのであれば、NHKのラジオ番組で「漢詩への誘い」を聴くようにすると、漢詩の考え方がわかります。

(例)『日本文学史』(河合出版)

NHKラジオテキスト 漢詩への誘い』(NHK出版)

漢詩入門』(岩波ジュニア新書) 『漢詩のレッスン』(岩波ジュニア新書)

『漢語の知識』(岩波ジュニア新書)

3.4読解

句形のドリル形式のテキストを一冊終えたら、自分にとって使いやすい入試問題を題材に編集された問題集をやるようにしましょう。入試問題から学ぶ姿勢が大切です。

(例)『実践演習・漢文(基礎・標準)』(桐原書店

『マーク式基礎問題集 漢文』(河合出版)

 

4.注意点

a.9月以降は、過去問に合わせて、語彙力や基礎知識を高めながら、入試問題に慣れ、計画を立てて進めて行く時期である。

b.過去問は、10月の段階で3割以上正解できていれば、その志望校は狙ってよい。

c.調子がわるいときは、復習すると効果的である。復習は、「選択肢を検討する」「解答の根拠の箇所をマーカーで引く」「音読する」「辞書で確認してメモする」ようにすると効果的である。また、漢字・単語などの単純作業も効果的であり、学習漫画を読むのもよい。

d.記述問題は、マークの正解のような文章を心がければよいので、実は、あまり記述問題(抜き出し問題を除く)では大きな差がついていないのが現状である。しかも、部分点がつく。

 

 

ハーロウの猿実験

ハーロウの代理母の猿実験

布製代理母と針金製代理母の比較実験-

 

アメリカの心理学者ハリー・ハーロウによる実験で、発達心理学の分野では良く知られた実験を紹介します。このハーロウの実験は、社会的に衝撃を与え、動物擁護運動を生み出すきっかけにもなったものです。

ハーロウは箱の中に布で出来た代理母と、針金で出来た代理母を容易し、その箱の中で赤ちゃん猿を育てました。布製の代理母は、体温同等の温度に暖められていますが、ミルクを飲むことはできない状態です。針金製の代理母には、哺乳瓶を取り付けてあり、ミルクを飲むことができる状態です。赤ちゃん猿は、お腹が減ったときだけ、針金の代理母からミルクを飲み、お腹が満たされると、直ぐに布製代理母の方に寄り付きます。その姿は、とても不安そうな様子でした。布製母と針金製母の距離を遠く離しても、同じ結果になりました。2匹の猿を、哺乳瓶を取り付けた針金代理母と、同じく哺乳瓶を取り付けた布製代理母で別々に育て、しばらくその環境下で過ごした後に、哺乳瓶を取り付けていない(=ミルクの出ない)針金母と布製母の下で過ごさせると、2匹の猿はその殆どを布製母と過ごし、針金母からミルクをもらっていた猿も針金母に興味を示さず、布製母にしがみつきました。

恐怖感を与える人形や蛇を赤ちゃん猿に見せると、赤ちゃん猿は戸惑いなく布製代理母にしがみつきました。この状況で布製母を取り除くと、猿は部屋の隅で泣き叫び続けますが、やがて自分から人形に近づいていきます。同じ実験を、針金代理母だけを設置し、布製母がいない状況で育てられた赤ちゃん猿で行うと、今度は叫び続けるだけで、人形に近づくことはできなかったのです。布製の代理母ですが、温もりを感じる存在と触れあうことで、一定の心理的安定性を構築し、外界に向かう好奇心や探究心を持つことができます。つまり、猿の心理的・精神的成長にとって、「皮膚感覚の接触(=スキンシップ)」が何よりも重要であることが判明しました。この代理母の比較実験の結果から、共認動物(猿・人類)にとって、皮膚感覚の接触を求める行動は赤ちゃんのときから染み付いているもので、心理的・精神的成長ためには、必要不可欠な行為であると言えます。

その後、ハーロウは、「母性は不用」と言う内容を発表しました。布でも何でも温かい接触さえあれば、子供は育つので母親はいなくても育つと言う論理です。しかし、この発表は赤ちゃん猿の成長過程での発表であり、数年経つと布製の代理母で育った猿も、針金製の代理母で育った猿も、正常には育ちませんでた。代理母で育った猿はみな、恐怖感が異常に強く、攻撃的で異常行動を起こすようになってしまったのです。社会性も育たないために集団に馴染めず、虐められ、最終的には集団を追い出されてしまいました。性行動も子育てもできず、さらには、自分の腕や指を噛んで血だらけになっていたり、自分の腕を噛み切ってしまったりした猿もいたそうです。結局、ハーロウの発表した「母性は不要」と言う結論は事実に反しており、単に温もりがあるだけの代理母では、対象性と社会性を欠如してしまうことが明らかになりました。
 代理母の体を動くようにしたり、正常な猿たちと遊ぶ時間をつくったりすると、発達はかなり改善されましたが、大幅な改善には至りませんでした。猿(人類も含めて)の成長と発達において、母親や仲間との関係性や反応が非常に重要であることがわかりました。

文節の記述

「文節」の記述の特徴

 

岡田 誠

本稿では、『日本語学研究事典』(明治書院)、『日本語大事典』(朝倉書店)、『日本語学大辞典』(東京堂出版)の3冊の日本語学の専門辞典に見られる「文節」の記述の特徴を示してみる。

 

1.『日本語学研究事典』(明治書院)の「文節」の記述

『日本語学研究事典』では、「文節」の項目の執筆者は佐藤武義である(注1)。定義は、以下のようになっている。

 

言語単位の一つ。橋本進吉命名になり、橋本文法の根幹をなす概念。文を実際のことばとして、できるだけ多く区切って、その以上切れない、最も短い一句切りを言う。音声学における音節の概念の類推により、かく名づけた。

 

 解説では、橋本進吉の説明を紹介したのち、研究史として、似たような概念を説いているものとして、大槻文彦、松下大三郎をあげている。また、対立する概念を説いているものとして、山田孝雄時枝誠記をあげている。また、文節の課題として「橋本の文節は形態上からの概念であるが、この範疇の中で、文節相互の連関性を多面的に究めることが求められよう」とし、時枝誠記の「入子型」構造の優位性を述べている。

参考文献としては、橋本進吉のほかに、大槻文彦山田孝雄、松下大三郎、時枝誠記金田一京助、神保格、鶴田常吉服部四郎渡辺実佐藤喜代治阪倉篤義のものをあげている。

 

2.『日本語大事典 下』(朝倉書店)の「文節」の記述

『日本語大辞典 下』では、「文節」の項目の執筆者は岩淵匡である(注2)。定義は、以下のようになっている。

 

橋本文法における言語単位の一つ。橋本文法の根幹をなす、基本的な概念である。文を実際の言語としてできるだけ細かく句切ったものをいう。文を分解して最初に得られる単位であって、直接に文を構成する成分である。文節は、それぞれ一定の形をもち、かつ一定の意味を表す。

 

解説では、橋本進吉の文節、連文節という発展の段階を橋本進吉の著作を中心に扱っている。その問題点として、以下のように述べ、時枝誠記の「入子型」構造の優位性を述べている。

 

「東京・京都・大阪は」の部分は「東京」「京都」「大阪は」と区切るのではなく「東京・京都・大阪はを受けて助詞「は」がまとめて一文節相当として機能していると考えるほうが自然であるなどの問題もある。このほか、述語・修飾語にも意味上のずれを生ずる。いわゆる「助動詞」をどう考えるかなどもその一つであるが、連体修飾や接続助詞を伴って述語に係る連用修飾にも同様に見られる問題となった。

 

橋本進吉に対立するものとして、時枝誠記の「入子型構造」をあげている。また、橋本進吉と類似した概念として、松下大三郎の「単詞」、金田一京助の「語節」、佐伯梅友の「文素」をあげている。

参考文献としては、橋本進吉のほかに、阪倉篤義のものをあげている。

 

3.『日本語学大辞典』(東京堂出版)の「文節」の記述

『日本語学大辞典』は、横書きで記述されている。「文節」の項目の執筆者は森篤嗣である(注3)。定義は、以下のようになっている。

 

橋本進吉により定義された言語単位の一種であり、橋本文法に基づく学校文法の根幹となる概念。橋本進吉は『国語法要説』(1934)において「文を実際の言語として出来るだけ句切った最も短い一句切れ」、「文を分解して最初に得られる単位であって、直接に文を構成する成分(組成要素)」と定義した。

 

解説では、『日本語学大辞典』(東京堂出版)は、橋本進吉(1934)『国語法要説』の前書きの「従来の研究は、言語の意義の方面が主となっているのであって、言語の形については、なお観察の足りないところが少なくないように思われる」を引用して、山田孝雄と松下大三郎の意味論的なものに対立する形として、外形上・音声上のものとして文節を設定したことを述べている。

橋本進吉の著作の変遷を示しながら、その中での橋本進吉の文節、自立語と付属語に関して、以下の例文における文節の問題点を指摘している。

 

「桜の/花が/咲く」という文において「桜の」という文節は「花が」に係ることになるが、実際には「桜の」は「花」に係って「桜の花」というまとまりになってから、「桜の花が」になるはずである。

 

以下の例文については、後の「連文節」という「連文節」を用いれば、「高くなる」で連文節を構成し、それに「温度が」となるため説明できるようになったが、「桜の花が咲く」は説明できないままであるとしている。

 

「温度が/高く/なる」という文において「高い」が形容詞、「なる」が動詞であるため、「高く」と「なる」の間で文節が切れるが、「温度が」「なる」に直接に係るというのは不自然であるし、「温度が/高く」だけをまとまりとみるというのも不自然である。

 

参考文献としては、橋本進吉の著作を示すだけで、ほかの人物のものを示していない。

 

4.考察

『日本語学研究事典』(明治書院)、『日本語大事典』(朝倉書店)、『日本語学大辞典』(東京堂出版)の3冊に共通するのは、橋本進吉の著作から、共通して以下の箇所を文節の形態上の特徴として引用している点があげられる。

 

(1)一定の音節が一定の順序に並んで、それだけはいつも続けて発音される。

(2)文節を構成する各音節の音の高低の関係(すなわちアクセント)が定まっている。

(3)実際の言語においては、その前と後との音の切れ目をおくことができる。

(4)最初にくる音とその他の音、または最後にくる音とその他の音との間には、それに用いる音にそれぞれ違った制限があることがある。

 

 相違点としては、『日本語学研究事典』(明治書院)と『日本語大事典』(朝倉書店)は文節の研究史を扱いながら、時枝誠記の「入子型構造」の優位性を指摘している。『日本語大辞典』は、佐伯梅友の文節の継承についても触れている。

それに対し、『日本語学大辞典』(東京堂出版)は特に研究史や「入子型構造」の優位性には触れていないことがあげられる。『日本語学大辞典』は、問題点に記述を絞り込んでいる記述になっている。

 

以上、三冊の日本語学の専門の辞典の「文節」の記述を比較・検討した。『日本語学研究事典』と『日本語大事典』は、橋本進吉以外の文法諸家で、文節という概念に類似的なものや、対立するものを取り上げ、研究史に力を入れながらも、文節の継承という点についても『日本語大事典』は触れている。また、『日本語学研究事典』では具体的な問題点にはあまり触れていないが、『日本語大事典』では問題点についても触れている。『日本語大事典』は、研究史に力を入れ、橋本進吉の系統の文節に類似的な文法諸家のものを中心に取り上げている。

それに対して『日本語学大辞典』は、文節から連文節に至る経緯を示し、文節の諸問題を取り上げ、他の文法諸家についての研究史ではなく、具体的な文節の問題点に焦点を当てて記述している。

 

1

 佐藤武義は、日本語史の専門家である。そのため、研究史として、大槻文彦から説き起こして執筆していると考えることができる。

2

岩淵匡は、漢字を専門としており、父が岩淵悦太郎である。岩淵悦太郎は、橋本進吉の高弟であり、学校文法のテキストを橋本進吉の監修のもとで執筆した人物である。その点で、研究史に力を入れて執筆していると推測される。

3

森篤嗣は、日本語教育、現代語の理論的研究、認知文法の専門家である。その点で、橋本進吉の文節の諸問題を言語学的に解析する記述に行ったと考えることもできる。

 

参考文献

日本語学会編(2018)『日本語学大辞典』東京堂出版,pp.815-816.

飛田良文編(2007)『日本語学研究事典』明治書院,pp.246-247.

前田富祺・佐藤武義編(2014)『日本語大事典 下』朝倉書店,pp.1777-1778.

 

藤原定家と日本語学

藤原定家

1.藤原定家(1162-1241)

藤原定家は、「ふじわらのさだいえ」が正式名称ですが、歌学や書道の世界では尊敬するときには音読みする習慣があるので、「ふじわらのていか」と呼ぶことが多く行われてきました。また、「姓+の+名」にする所属の「の」を入れる習慣が鎌倉時代までは強いので、「ふじわらていか」ではなく、「ふじわらのていか」と呼ぶことが多いのです。鎌倉時代前期の代表的な歌人で、生涯で4000首ほど残っています。その歌風は、華麗妖艶と言われます。和歌集としては『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』の編纂、『拾遺(しゅうい)愚(ぐ)草(そう)』があり、歌論書としては『近代(きんだい)秀歌(しゅうか)』『詠歌(えいか)大概(たいがい)』、漢文日記の『明月記(めいげつき)』などがあります。和歌の注釈書としては、『顕註(けんちゅう)密(みっ)勘(かん)』があります。「註」と「注」の違いは、ことばでやさしく説明する意味のときは「註」、固い土に水をかけて解きほぐす意味のときには「注」の文字を使用します。また、『古今和歌集』『伊勢物語』『更級日記』『土佐日記』の校訂書写を行い、古典文学作品を後世に伝えた功績は大きいとされています。

【日本語学の業績】

日本語学での業績としては、仮名遣いを発音に応じて書き分けたという業績があります。藤原定家の頃には、実際の発音と仮名との対応関係が崩れてきていました。そこで、藤原定家は『下官集(げかんしゅう)』という書写の心得の中で、発音の高い(上声)の「ヲ」には「を」、発音の低い(平声)の「オ」には「お」の仮名を当て、「え・へ・ゑ」と「ひ・ゐ・い」の文字については、「しろたへ」「すゑ」古い文献をもとに、単語ごとに基準を示しました。これを「定家仮名遣い」と呼び、行阿(ぎょうあ)が増補した『仮名文字遣』を通じて普及していきました。

 

 

 

藤原定家と日本語学

藤原定家

1.藤原定家(1162-1241)

藤原定家は、「ふじわらのさだいえ」が正式名称ですが、歌学や書道の世界では尊敬するときには音読みする習慣があるので、「ふじわらのていか」と呼ぶことが多く行われてきました。また、「姓+の+名」にする所属の「の」を入れる習慣が鎌倉時代までは強いので、「ふじわらていか」ではなく、「ふじわらのていか」と呼ぶことが多いのです。鎌倉時代前期の代表的な歌人で、生涯で4000首ほど残っています。その歌風は、華麗妖艶と言われます。和歌集としては『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』の編纂、『拾遺(しゅうい)愚(ぐ)草(そう)』があり、歌論書としては『近代(きんだい)秀歌(しゅうか)』『詠歌(えいか)大概(たいがい)』、漢文日記の『明月記(めいげつき)』などがあります。和歌の注釈書としては、『顕註(けんちゅう)密(みっ)勘(かん)』があります。「註」と「注」の違いは、ことばでやさしく説明する意味のときは「註」、固い土に水をかけて解きほぐす意味のときには「注」の文字を使用します。また、『古今和歌集』『伊勢物語』『更級日記』『土佐日記』の校訂書写を行い、古典文学作品を後世に伝えた功績は大きいとされています。

【日本語学の業績】

日本語学での業績としては、仮名遣いを発音に応じて書き分けたという業績があります。藤原定家の頃には、実際の発音と仮名との対応関係が崩れてきていました。そこで、藤原定家は『下官集(げかんしゅう)』という書写の心得の中で、発音の高い(上声)の「ヲ」には「を」、発音の低い(平声)の「オ」には「お」の仮名を当て、「え・へ・ゑ」と「ひ・ゐ・い」の文字については、「しろたへ」「すゑ」古い文献をもとに、単語ごとに基準を示しました。これを「定家仮名遣い」と呼び、行阿(ぎょうあ)が増補した『仮名文字遣』を通じて普及していきました。

 

 

 

文学作品と日本語学(1)

文学作品と日本語学(1)

 

1.文学史の整理-上代から中世

 

上代文学

古事記・・稗田阿礼誦習。太安万侶の筆録。

日本書紀・・舎人親王

万葉集・・大伴家持撰。「ますらをぶり」

 

物語文学(平安時代

【伝奇物語】

竹取物語・・「物語の出で来はじめの祖」(源氏物語

宇津保物語・・長編。源氏物語に影響。

落窪物語・・継子いじめ話。

【歌物語】

伊勢物語・・歌物語。在原業平がモデル。「みやび」

大和物語・・歌物語。前半が歌人の逸話、後半が説話的。

平中物語・・平貞文がモデル。「をこ」

源氏物語・・平安時代の物語文学の最高傑作。紫式部。五十四帖。「もののあはれ

    ↓

源氏物語の影響】

堤中納言物語・・短編物語集。「このついで」「虫めづる姫君」「はいづみ」などを載録。

夜半の寝覚

浜松中納言物語

狭衣物語・・長編。

とりかへばや物語

 

日記文学

(平安)

土佐日記・・紀貫之

蜻蛉日記・・藤原道綱母

和泉式部日記

紫式部日記

更級日記・・菅原孝標女

讃岐典侍日記

(鎌倉)

十六夜日記・・阿仏尼

 

説話文学

(平安)

日本霊異記・・景戒。仏教説話。

三宝絵詞・・仏教説話。

今昔物語集

(鎌倉)

宇治拾遺物語・・世俗説話。

発心集・・鴨長明。仏教説話。

十訓抄・・教訓書。

古今著聞集・・橘成季。世俗説話。

沙石集・・無住。仏教説話。

 

歴史物語

(平安)

栄花物語・・編年体藤原道長を賛美。

大鏡・・紀伝体。大宅世継と夏山繁樹の語る昔話。藤原道長を批判。

(鎌倉)

今鏡

水鏡

南北朝

増鏡

 

軍記物語

(鎌倉)

保元物語

平治物語

平家物語・・仏教的無常観。和漢混交文。琵琶法師の平曲。

異本(源平盛衰記

南北朝

太平記

曽我物語

(室町初期)

義経記

 

三大随筆

 

枕草子・・清少納言。父は清原元輔。「をかし」

方丈記・・鴨長明。和漢混交文。

徒然草・・兼好法師。和漢混交文。擬古文。

 

八代集

平安時代

古今和歌集・・905年。紀貫之らの撰。「たをやめぶり」

後撰和歌集・・梨壺五人の撰。

拾遺和歌集・・源氏物語枕草子と同時期

拾遺和歌集

金葉和歌集・・源俊頼

詞花和歌集

千載和歌集・・藤原俊成

鎌倉時代

新古今和歌集・・1205年。後鳥羽院の勅命。藤原定家らの撰。

 

六歌仙

大伴黒主 喜撰法師 小野小町 

僧正遍照 文屋康秀 在原業平

 

私家集

山家集・・西行

金塊和歌集・・源実朝

建礼門院右京大夫集・・女版平家物語

 

歌謡集

和漢朗詠集・・藤原公任

梁塵秘抄・・後白河法皇の撰。「今様」

 

2.資料-『万葉集』の表記-

 

「東野炎立所見而反見為者月西渡(『万葉集』・48)の訓み下し」の問題点

 

a.賀茂真淵の訓み下し

ひむがしののにかぎろひのたつみえてかへりみすればつきかたぶきぬ万葉集・四八)

(東の野にかぎろひの立つ見えて返り見すれば月傾きぬ)

b.旧訓

あづまののけぶりたてたるところみてかへりみすればつきかたぶきぬ

 

(参考)

菜の花や月は東に日は西に与謝蕪村

 

 c.賀茂真淵の訓み下しの語法上の欠点

〇「見ゆ」が活用語を受ける場合には、「終止形+見ゆ」でないといけないのに、「野にかぎろひのの」の「の」を読み添えているために佐伯梅友(1938)『万葉語研究』(文学社)の説からすると、「―の―連体形」となり、「連体形+見ゆ」で、「立つ(連体形)見えて」になってしまっている。

〇「炎」を「かぎろひ」と訓んでいるが、「けぶり」ともよめる。

〇「月西渡」を「月傾きぬ」「月傾けり」「月は傾く」と訓んだり、あるいは表記をそのまま生かして、「月西渡る」ともよめる。

 

d.伊藤博(1995)『万葉集全注』(集英社

ひむがしののにはかぎろひたつみえてかへりみすればつきにしわたる

東の野にはかぎろひ立つ見えて返り見すれば月西渡る

 

e.佐佐木隆(1996)『上代語の構文と表記』(ひつじ書房

ひむがしののらにけぶりはたつみえてかへりみすればつきかたぶきぬ

東の野らに煙は立つ見えて返り見すれば月傾きぬ

 

ただし、「月西渡」を、伊藤博(1983)『万葉集全注』(有斐閣)では、「万葉では西空の月には必ず傾くというのを尊重してカタブキヌの訓を採る」として「月傾きぬ」としてあったものを、伊藤博(一九九五)『万葉集全注』(集英社)では、以下のように「月西渡る」としている。

 

「『東の野にはかぎろひ立つ』に対しては、原文『月西渡』の文字にそのまま則してツキニシワタルと訓ずる方が適切であろう。『西渡る』は、月や日の移る表現として漢詩文に多用される『西○』(西流・西傾・西帰など)を意識したものらしい」

 

  1. 日本語学Q&A

(問)

古典文法で、「射る」はヤ行上一段活用だと学びましたが、上一段活用は納得できました。しかし、活用が「い・い・いる・いる・いれ・いよ」となり、ア行でもよいと思いますが、どうしてヤ行なのでしょうか。

(解答)

 これは、あくまでも推測というレベルで行っている問題です。つまり、ア行かヤ行であるなら、文脈を見るということになります。「弓矢を射る」という使い方をします。つまり、「る」という「ヤ行」で説明すれば統一できるというわけです。そのため、「射る」は「ヤ行」にしているわけです。