心理学の分類・適職と天職

「心理学の分類」

 

こんにちは。今回は、心理学の分類をしてみました。心理学の範囲は広いので、ライフワークにはとてもよいと思います。しかも、いろいろなことが学べますので、お勧めです。

 

心理学の二つの大きな流れ

1実験心理学・・ヴント

健康な人が対象・心のメカニズムを探る

文学部・心理学部

2臨床心理学・・フロイト

不健康な人が対象・不健康な人を診断したり、治したりする。

教育学部・心理学部

3生物学的精神医学

脳機能に注目して、薬物治療を行う。

医学部

 

適応範囲に応じた分類

1発達系・・発達心理学教育心理学

2医療系・・臨床心理学・精神病理学犯罪心理学精神分析学など

3認知系・・認知心理学学習心理学・思考心理学・言語心理学・生態心理学など←社会心理学

4知覚系・・生理心理学・動物心理学・神経心理学知覚心理学実験心理学など

5応用系・・産業心理学・広告心理学・色彩心理学・交通心理学・環境心理学など←社会心理学

 

心理学のジャンル

1人が普遍的に持っている心理法則の分野

発達心理学」「教育心理学

動物も含め、人の生涯における心や行動の発達を研究する分野。

学習心理学

本能や条件付けを含め、学習による行動法則を研究する分野。

知覚心理学

人は外部の情報をどのように知覚するのかを研究する分野。

認知心理学

人は知覚した情報をどのように認知するのかを研究する分野。

「感情心理学」

人の感情や欲求はどうなっているのかを研究する分野。

「欲望の心理学」

人の欲求や欲望はどうなっているのかを研究する分野。

「臨床心理学」

社会的適応などカウンセリングを含む分野。

2個人差を研究する分野-性格心理学

「類型論的アプローチ」

クレッチマーやシャルドンの「体格性格類型論」、ユングの「外向性・内向性理論」。

「特性面的アプローチ」

キャッテルの「16PF理論」

「性格診断法」

観察・面接・質問・作業検査・投影・描画

「結果の把握と表現」

数値で示す。個性記述により示す。

3社会心理学-「人間関係の分野」と「人と社会の心理関係の分野」

社会心理学

群集心理学

広告宣伝の心理学

マスコミの心理学

流行の心理学

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

74回「適職と天職」

 

○適職・天職の見つけ方

 

仕事の選び方

仕事の選び方は重要です。できれば、得意なものを仕事にした方が実績もあがりますし、運もよくなりますから、その方がよいわけです。その上で他にエネルギーを向けるとよいわけです。ただ、何も得意なものや好きなものがないときには、どうすればよいでしょうか?

一つは、占いで適職をみることです。実際、占いの結果で行って能力を開花させているケースも多くあります。推理小説作家の高木彬光氏は、戦後、仕事がなくなったときに易者に易を立ててもらったところ、小説家に向いているといわれ、努力し、原稿の持ち込みも行って江戸川乱歩に認められて小説家として有名になりました。

もう一つは、櫻井秀勲氏が述べていますが、小さい頃に好きだったものを思い出してみるということです。その小さい頃に好きだったものに関連したことをやるとよいわけです。たとえば、人前で話すのが好きだったら、アナウンサーや司会業、教師などの人前で話す仕事を選んでみるとよいわけです。小さいころは、過去世の魂の傾向性がでやすいので、素直に適性を反映しているケースが多いものです。

また、意外と血統運というものも参考になります。その一族、親戚がどのような仕事をしていたかに従うと、意外とよいのです。サラリーマン家系ならサラリーマン、教師の家系なら教師を選択すると、自分にあうことも多いという事実があります。

 

(ライフワークを見つける五つの質問)

1.小さいころから大好きなことは?

2.周囲の人に、よく感謝されたことは?

3.やりたいけれど、やるのが怖いことは?

4.生きているうちに、やっておきたいことは?

5.一生かけてみる世界は?

 

(西谷泰人氏のブログより)

そのようなことを考えていたら、手相家の西谷泰人氏が、ブログで次のような興味深い記事を書いていたので、紹介します。

手相鑑定をしていて、よく受ける質問に、「先生、私は仕事、何をやったらいいですか?」 というものがあります。その質問をなさる方は、大きく分けると2タイプある。グループA、「やりたい事がいろいろあって、どれにしたらいいですか?」 というもの。グループBは、「やりたい事が何もないのですが、何がいいでしょうか?」 です。昨日いらっしゃった女性は、グループAの人で、既に1つ2つの資格も持っていらっしゃいました。なので、大丈夫でしょう。(もちろん手相を見て 才能を分析し、適職を伝えましたが)問題は、Bグループの人です。やりたい仕事が見つからない・・・。そんな人は、何を基準に見つけようとしているかですね。(Bの方にも、手相で適職はお伝えしますが)まず、次の基準で考えてみてください。

1.自分がやりたい仕事である。

2.生きがいを感じることである。

3.皆さんの役に立ち、喜んでもらえる事である。

生活の為に仕事をするのも必要です。加えて以上の3点から考えてみる。(どれか1つに当てはまる仕事なら良い)ダメなのは、楽して、いっぱい儲かる仕事・・・、なんて言って探している人。それじゃ間違いますよ。見つからないでしょう、という事で、仕事の見つけ方3ポイントでした。

 

天職と適職について

天職と適職に分けるという考え方があります。本来は、天職(ライフワーク)を仕事にして、生活できるといいのでしょうが、なかなか天職で暮らすのは経済的に難しいと言わざるをえません。そこで、現在のカウンセリングなどでは、現実を見据えて稼ぐための適職と心を満たすための天職とにわける方法が有効だとして、アドバイスすることが多いようです。江原啓之氏もそのようにアドバイスしているようですね。一番、リスクの少ない方法といえますし、「趣味は仕事の栄養剤」ということばにも一致しています。

では、天職(ライフワーク)とはどのようなものでしょうか?その条件として、本田健氏は『ライフワークで豊かに生きる』(サンマーク文庫)の中で、

1生まれ変わってもやりたいこと。

2それをやっているだけで楽しいこと。

3見ているまわりまで楽しませ、幸せな気分にさせること。

4無人島に流れ着いてもやりたいこと。

5お金を払ってでもやりたいこと。

6いつもまわりの人にほめられたり、「もっとやったら」と薦められること。

7少しでも時間があれば、やってしまうこと。

と7つの側面を指摘しています。また、人生を変える7つのサインとして、

1リストラ、仕事の行き詰まり、売り上げの急減。

2自分や家族の病気、事故。

3お金のトラブルや破産。

4人生の退屈感。

5物事の完了。

6男女関係・人間関係のトラブル。

7他人のライフワークに触れたとき。

をあげています。鋭い観察ですね。まさに、「ピンチはチャンス」ですね。

運命学で有名な桜井秀勲氏は、小さいころに得意だったり、目指していたものに適職にヒントがあると述べています。桜井秀勲氏は『運命は35歳できまる』(三笠文庫)の中で、以下のように述べています。

 

人には必ず独自の才能があり、その才能を生かすことが成功の確率を上げることにつながるのである。とはいえ、途中から無理に育てられた才能より、才能とは言えないかもしれないが、幼いころにもっていた興味を生かすほうが、実は花が開きやすいのである。・・(中略)・・もし、あなたが一生の仕事にまだ迷っているようなら、一度子どもの頃の生活をゆっくり回想し、忘れてしまった興味、途中で捨ててしまった好きな遊びや趣味を、もう一度思い起こしてみよう。もしかすると、そこに成功の原点を見出せるかもしれない。

 

また、『日本で一番わかりやすい運命の本』(PHP研究所)の中でも「最初の運命は子どもの頃、得意なものの中に潜む」述べています。

 

 

NLPとノーム・チョムススキー、ミルトン・エリクソン

1.ノーム・チョムスキー生成文法の言語観とコミュニケーションへの応用-聴き方-

「言葉の裏で省略、歪曲、一般化が行われている」→これらを復元する質問法

 

メタモデル

 

メタモデル1「不特定名詞」

「誰が」「いつ」「誰に」「何を」「どこで」などが具体的に示されていない表現を「不特定名詞」という。これらを明らかにすることで、正確なコミュニケーションになる。

(会話例)

みんなは誰?どんなお客様?いつごろ?どんな人たち?何のよさ?

 

メタモデル2「不特定動詞」

どのようにしたのかが、具体的に示されていない行動や感情の表現を「不特定動詞」という。「どうやって」「どうして」を引き出すと、その行動や感情について省略されてしまった情報を相手と共有することができる。

(会話例)

どの部分をどんなふうに頼めばいいのかな?緊張するのはどうしてなの?調べるのは増加数かな、増加率かな?

 

メタモデル3「比較」

比較の対象を明らかにすることで、客観的に評価し、理解することができる。

(会話例)

誰と比べて下手だと思うの?どのレベルの中で最高ということ?何に比べて能率がよくなるのですか?

 

メタモデル4「判断」

判断の基準が明確になることで、評価の妥当性が判断しやすくなる。

(会話例)

それは誰の評価なのですか?たしかに良いアイデアだと思いますが、こうしたアイデアの良し悪しは、どんな基準で判断しましょうか?

 

メタモデル5「名詞化」

さまざまなプロセスをひとくくりにして、静止した名詞に置き換えることで、抽象的表現を具体的プロセスにしていくことで、あいまいな理解しかできなかったものが、より具体的な情報になる。

(会話例)

どんな商品を扱っているの?彼女の役割は?部下に対する接し方がうまいの?失礼だけど、何かお金に困っているの?ご家族と暮らしているの?責任を分担できる兄弟はいるの?どんな目標を設定して、何を努力しているの?その努力で何が改善されるの?

 

メタモデル6「等価の複合観念」

本来イコールではない内容なのに、同じ意味(等価)になっているパターンを質問によって、あいての発想を自由にするパターン。

(会話例)

上司は私にうるさく報告を求めます。私を信頼していないのだと思います。→報告を求めることは、信頼していないことを意味するのですか?

彼は私の眼を見て話しません。私に関心がないのです。→眼を見ないからって、関心がないと言えるのでしょうか?

 

メタモデル7「前提」

暗黙のうちに何らかの前提が隠れている場合がある。隠れた前提にズレがあると、ミスコミュニケーションになる。隠れた前提を明確にしておくことは重要である。

(会話例)

目的地まで、どちらの道をいくのがはやいだろう。→車で行くという前提が隠れている。

なぜ、彼には無理だとお考えですか?→彼は未熟で力不足だという前提が隠れている。

服の色を選ぶところまでは考えていないのですが。→服を買うという前提が隠れている。

 

メタモデル8「因果」

因果関係をとらえなおすことで、思い込みをはずし、柔軟にする。また、気づきを促したりするのが目的である。

(会話例)

最近、十分な休みが取れていないから、仕事の調子がでない。

→休みが取れていないと、具体的にどんなふうに不調の原因になるの?

今日は雨が降っているから、売り上げが下がる。

→雨が降ると、具体的にはどんな理由で売れなくなるの?

 

メタモデル9「憶測(読心術)」

本人から気持ちを聞いたわけでもないのに、他人の気持ちや考え方を決めつけていることがあり、これを憶測や読心術と呼ぶ。このパターンを外す質問も有効である。

(会話例)

どうして彼が傷つくとわかるのですか?

どうしてあなたの思いが伝わっていると思うのですか?

 

メタモデル10「可能性の叙法助動詞」

「できない」「不可能だ」「無理だ」などのcan notで、その人が無意識に限界を決めてしまっているものを相手に問いかけて反論させ、問題点を明らかにする手法である。

(会話例)

経験が豊富なあなたが、どうして社長をサポートできないと思うの?

頼んでみたら、どういう不都合があるかな?良好な関係なんだから、相談するだけしてみない?

 

メタモデル11「必要性の叙法助動詞」

より詳しい情報を引出し、相手に本当は自分も望んでいるのに、無意識に制裁を加えている状態(すべきだ・すべきでない・しなければならない・must・should・must not)に気付かせ、束縛から解放することが目的である。

(会話例)

もしあなたがそうしないと、どんなことが起こるのですか?

もしあなたがそうしたら、どんなことが起こるのですか?

 

メタモデル12「普遍的数量詞」

「みんなが」「誰でも」「すべて」「いつも」「必ず」「決して-ない」「いつも-ない」といった例外を排除してしまう表現を、「普遍的数量詞」という。この思い込みに例外はないかを相手に思い起こさせる手法である。

(会話例)

客観的に見て、必ず、いつも無視しているのですか?

本当に、ただの一度もうまくいったことがないのですか?

全員がそうなのだと思いますか?

 

 

2.ミルトン・エリクソンの言語催眠とコミュニケーションへの応用-話し方-

リチャードバンドラー+ジョングリンダー『催眠誘導』・・言語学者と心理学者の共同研究

肯定表現・そして(and)・かもしれない(may)

       ※デール・カーネギー『人を動かす』『道は開ける』←ウイリアム・ジェームズ

徳川夢声『話術』

 

【ミルトンモデル】

 

ミルトンモデル1「名詞化」

「問題」「解決」「体験」「愛情」など思考や行動のプロセスを名詞にして表現すると、具体的な情報が大幅に省略される。そのように具体的に触れないことで、聞き手が自由に解釈することができる。つまり、ことばを聞いた人が無意識に、自分にとってもっともしっくりする意味をことばに与えるのである。

(会話例)

あなたは多くの可能性を持っています。

彼は愛情を示しているのではないかしら。

問題の解決方法をあなたは知っているはずだ。

 

ミルトンモデル2「不特定名詞」

「誰が」「いつ」「どこで」「誰に」「何を」などを具体的に示さない名詞(人は・私たちは・いつか・いつでも・それ・そのこと)を用いないことで、自分に都合よく解釈する。それによって自分が知りたいと思っていることに無意識にアクセスする。

(会話例)

人は好きなときに、好きな場で学ぶことができます。

あなたはいずれ、そのことに気づくでしょう。

 

ミルトンモデル3「不特定動詞」

動き、体験、変化、学びの具体的な内容や方法を特定しない動詞(動く・変わる・体験する・学ぶ・思う)を用いることで、聞き手が自分にとって意味ある内容を思い浮かべる。

(会話例)

よくやってくれた。

今こそ、歴史を動かすときだ。

今日までの体験を通じて、あなた方は変わりました。

よい学びの機会になったことと思います。

 

ミルトンモデル4「基準の省略」(比較・判断)

「より」「さらに」などの比較の副詞を用いるが、何に比べて、どの程度といった基準を省略することで、比較対象や判断基準を自由にイメージさせることで、意識の抵抗なく聞き手の心にすんなりと入っていく表現である。

(会話例)

より細やかなサービスを目指そう。

さらにおいしくなりました。

 

ミルトンモデル5「連結語」

現在起こっていることと、将来起こってほしいことを「そして」「しているとき」「すると」「によって」という言葉でつなぎ、起こってほしいことへとクライアントを導く。連結語で結びつけたメッセージは、聞き手の無意識に抵抗なく訴えかけることができる。

(会話例)

いま、あなたは私の声を聴いています。そして、呼吸がとても穏やかになっていくのを感じています。

こういう車に乗ったら、ワンランク上の満足感が得られますよ。

あなたはこの車に乗っています。そのとき、あなたはワンランク上の満足感を得ているでしょう。

このコスメで自分らしさを出すと、みんなに注目されるよ。

あなたはこのコスメを使っています。それによって、自分らしさを演出しているのです。すると、あなたはみんなに注目されます。

 

ミルトンモデル6「マインドリーディング」

セラピストは、クライアントの考えが読めているかのような表現の駆使をするときがある。ラポールを築く上での有効な方法である。「私はあなたの気持ちをわかっています。そして、その気持ちを私も共感していますよ」という二段階のメッセージとして伝わる。

(会話例)

私がこれらか言うことに、あなたはきっと関心があるはずです。

今抱えている課題に、自分の内面的な問題が関わっていると思うのですね。

あめでとうございます。お喜びもひとしおでしょう。

そんな失礼なこと、許し難いと思われたでしょうね。

災難に遭われて、さぞつらかったでしょうね。

 

ミルトンモデル7「時の従属」

「-の前に」「-の後に」「-の間」などの言葉で、聞き手に前提を認めさせる。

(会話例)

君が売上目標を達成する前に、相談しておきたいことがある。→売上目標を達成することを前提としている。

 

ミルトンモデル8「序数」

「初めに(最初に)」「次に(二番目に)」などの言葉で、聞き手に前提を認めさせる。

(会話例)

どの地区からライバルを追い落とそうか。初めはA地区がいいか、B地区か。→ライバル社を追い落とすことを前提としている。

 

ミルトンモデル9「あるいは、または、さもなければ」

「あるいは」「または」「さもなければ」などの選択させることばは、それ以外の可能性を強く打消す言い方になる。

(会話例)

この仕事を御社にお願いしたいのですが、今週中に手をつけていただけるのでしょうか、それとも来週以降まで待ったほうがいいですか?

 

ミルトンモデル10気づきの叙述語

「気づく」「わかる」「知っている」などのことばを使って質問すると、その前に述べた内容が強力な前提となる。

(会話例)

あなたは、この分野での自分の能力に気づいていますか?→自分に能力があることを認めさる

この地域でわが社のブランドに対する好感度が高いと君は知っていますか?→自社のブランド力が高いことを認めさせる

 

ミルトンモデル11副詞と形容詞

どのように、またはどの程度など、状態を示す修飾的表現(副詞・形容詞)は、修飾されることばを前提として使うものである。

(会話例)

その製品を出荷するには、どうしたらいいだろう?→出荷できるかどうかが問題になっている

その製品を速やかに出荷するには、どうしたらいいだろう?→出荷することがすでに前提になっている

 

ミルトンモデル12時制と副詞の変更

「始める」「終わる」「続ける」「やめる」「まだ」「すでに」「もはや」などのような、時の経過を示すことばや、何かが行われる(または行われている)ことを前提としている。

(会話例)

あなたがこのプロジェクトに関心をもち始めたのはいつですか?→「プロジェクトに関心を持っていること」が前提

君はもうC社に売り込みをかけているかな?→「C社に営業をかけること」が前提

 

ミルトンモデル13論評的形容詞と副詞

話し手が「必然的に」「運よく」「喜んで」「幸いに」などの論評的形容詞と副詞を使うと、聞き手はそれを前提として受け入れるため、説得力が増す。

(会話例)

運がいいことに、我々はこのマーケットで勝ち抜くために何が求められているかをすでに知っている。

幸いなことに、この商品はD社が開発中のスペックをすでに盛り込んでいる。

 

ミルトンモデル14普遍的数量詞

「すべて」「どんな-でも」「いつも」「誰でも」などの普遍的数量詞を用いて表現すると、聞き手の側は言われた内容に強い印象を抱く。

(会話例)

先生のお話はいつも勉強になります。

誰でもそう感じるのではないでしょうか。

 

ミルトンモデル15必要性の叙法助動詞

「できない」「しなければならない」などのことばを使って、ほかの選択肢を打ち消す表現で、素直に従いたくなる表現である。

(会話例)

人の上に立つものとして、ここで弱音を吐くことはできませんよね。

場合によっては、いやなライバル企業とも手を組まなければならないからいでしょう。

 

ミルトンモデル16挿入命令

埋め込まれた命令のことで、「-してもかまいません」「-していいです」など、聞き手に気付かれずに指示や命令を伝えるパターンである。

(会話例)

夕飯の前に宿題をやってしまってもかまわないよ。→勉強しなさい

君がいつE社を訪問するかは自由だが、私は、あの会社もけっこう有望な取引先になると思っているんだ。→E社に行ってみなさい

 

ミルトンモデル17アナログマーキング

会話の中に織り込んだ「挿入命令」を際立たせるために、非言語的マークをつけることである。

(具体例)

埋め込んだ指示内容の前後に間をとる。

前後のことばより大きな声でゆっくりと話す。

トーンを変える。

意図的に手を動かす。

眉毛を上げてみせる。

 

ミルトンモデル18質問挿入

文中にさりげなく問いかけや質問を埋め込む話法で、自然に聞き手から回答を引き出すもので、相手が自分からオープンに話しやすくなる雰囲気をつくる質問の仕方である。

(会話例)

あなたが今の待遇に満足しているかどうか、気になっていました。

 

ミルトンモデル19否定的命令

「ーしないでください」という否定的な命令を相手に伝えることで、聞き手は「-すること」を意識してしまう方法。

(会話例)

仕事が楽しくてたまらないとは、考えないでください。→楽しく働いている自分を意識してしまう

今どうしても手に入れたいと思うものを、いったん忘れてください。→自分の欲しいものを思い浮かべてしまう

 

ミルトンモデル20会話的要求

何かしてほしいことを相手に伝えるのに、命令の形ではなく、質問の形で伝えるパターンである。

(会話例)

伝票は出してもらっていたかな?

明日までに返事をいただけるでしょうか?

この前いただいたサンプルよりも、色を濃くしていただけますか?

 

ミルトンモデル21曖昧

催眠療法のテクニックとしての心得は、曖昧にすることである。

○発音が似ていて違う意味を持つ言葉を、どちらの意味にも取れるように使う。

○修飾語の指している範囲や、「わかる」「知っている」などの言葉が示す範囲を曖昧にすることで、いくつかの意味に取れるように話す。

 

ミルトンモデル22比喩

人や物の特徴を、別の何かにたとえて表現するものである。この比喩によって、聞き手の印象を深めることとなる。

(会話例)

カミソリのような変化球の切れ味です。

彼なら、機関車のように力強くチームを牽引してくれるに違いない。

 

ミルトンモデル23事実違反

事実としてはありえない、突飛なことをいうメタファーにより、聞き手は自分なりに解釈しようとする。

(会話例)

夜を徹して作業したから、ついにパソコンが怒りだして、データサーバーはふて寝してしまった。

あまりの暑さに、扇風機も汗だくでしょう。

 

ミルトンモデル24引用

人の言葉や、昔から言い習わされてきた格言・ことわざなどを引用するのも効果的なメタファーである。

(会話例)

「人から批判されることも恐れてはならない。それは成長の肥やしとなる」という、エジソンの言葉もあるしね。

 

ミルトンモデル25物語

神話や伝説、民話や寓話、偉人伝には、さりげない強いメッセージが込められていることが多い。その話を子供に聞かせてあげると効果的である。

 

傾聴について考える

「傾聴の方法の二種類」

 

こんにちは。「傾聴」ということばが浅い感じで使われているようですので、そのことについて考えてみたいと思います。傾聴と聞くと、じっと聞いているだけという印象を受けるかもしれませんが、そんなことはありません。傾聴の基本は「成長を見守る」「寄り添う」のを基本とします。詳しくは、傾聴、すなわち、「来談者中心療法」の創始者である、カール・ロジャースの本を参考にするとよいのですが、簡単にそのエッセンスを示すと、以下のようになります。この方法は、信頼関係(ラポール)を作るために有効だとされています。

 

(傾聴の方法)

1うなづき・あいづち

2姿勢・アイコンタクト

3くりかえし・要約

4沈黙

5共感的理解

6質問

 

この方法は受動的・消極的な聴き方(passive listening)と言われています。これらで、信頼関係が成り立ったら、次は積極的な聴き方(active listening)になります。つまり、「本当に、全員、あなたのことが嫌いなの?」「それだと、逃げにしかならないので問題が解決しないのでは?」というように、切りこんでいくのです。まさに、「飲み屋のママさん」がいいお手本ですね。かつて日本にカウンセラーがいなかったころ、精神科か占い師のもとにいく人が多い中、男性の大半は飲み屋のママさんに話を聞いてもらっていたといいます。飲み屋のママさんは名カウンセラーですね。

 

日本語研究史の要点

日本語学史

 

a.日本語学史・・日本語研究の歴史

 

cf.雑誌『日本語学』2016年4月特大号-「特集 人物でたどる日本語学史」-

空海・円仁・源順・藤原定家・仙覚・清原宣賢

ロドリゲス・契沖・新井白石賀茂真淵・谷川士清・越谷吾山・

本居宣長富士谷成章本居春庭石塚龍麿鈴木朖

ホフマン・ヘボン西周前島密大槻文彦物集高見森鷗外二葉亭四迷夏目漱石

上田万年山田孝雄柳田国男橋本進吉・松下大三郎・時枝誠記

 

b.日本語研究史-人物中心-

 

ロドリゲス(1561?-1633)・・『日本大文典』『日本小文典』

宣教師、日本語の話し方の文法研究。

チェンバレン(1850-1935)・・『日本語口語入門』

帝国大学で博言学を講じた。

ヘボン(1815-1911)・・『和英語林集成

医者、宣教師、ヘボン式ローマ字、聖書の日本語訳。

上田万年(1867-1937)・・『国語のため』

「P音考」、国語調査委員会主事(標準語・仮名遣い・文体の検討)。

大槻文彦(1847-1928)・・『言海』『広日本文典』

近代的辞書の作成、明治初期の洋式文典と江戸時代の国学者の文法との和洋折衷の文法。

山田孝雄(1873-1958)・・『日本文法論』『日本文法学概論』

最後の国学者、副詞の三分類(情態・程度・陳述)、文の成立論。

松下大三郎(1878-1935)・・『改撰標準日本文法』『日本俗語文典』

独自の用語を使用した文法、中国人留学生への日本語教育話し言葉の文法。

橋本進吉(1882-1945)・・『国語法要説』『国文法体系論』

外形・形式重視の文節文法を提唱。

時枝誠記(1900-1967)・・『国語学原論』『日本文法口語篇』

詞(客観的概念)と辞(主観的表現)の重層的組み合わせによる、言語過程説を提唱。

佐久間鼎(1888-1970)・・『現代日本語の表現と語法』『日本語の特質』

ゲシュタルト心理学、コソアドの研究、アクセント論。

三上章(1903-1971)・・『現代語法序説』『象は鼻が長い』

主語を認めず、主語廃止論を主張。

 

 

 

 

長沼直兄・西洋人の受身記述

2013.7.20(土)

國學院大學日本語教育研究会

発表資料

 

長沼直兄の日本語教科書における受身文について

                                                                  

國學院大學大学院生  岡田 誠

 

 

はじめに

 

本稿では、近代・現代の日本語教育に偉大な業績を残した長沼直兄の受身記述及び、長沼直兄編纂による日本語教科書における受身文の扱い方に焦点を当てて、考察することとする。丸山敬介(1997)、河路由佳(2010)の指摘にもあるように、長沼直兄の中心となる考え方を示している、NAGANUMA(1945)『FIRST LESSONS IN NIPPONGO』開拓社(以下、略称『FLN』)、及び長沼直兄(1931-1934)『標準日本語読本』財団法人言語文化研究所をテキストとして用いることとする(注1)。

 

 

1.長沼直兄の日本語教科書受身記述

 

長沼直兄(1945)『FLN』は、英語による日本語の入門書である。そこでは、41課で次のように英語と日本語との受身表現の違いに言及し、「れる」「られる」の形式で受身動詞になり、日本語の場合には、英語と異なり、受動的事柄に限定して受動表現が使用され、ほとんどの受身表現には対応する能動表現があることを述べている。

 

The Japanese passive is very different from the English passive voice. In English the passive voice is used profusely, not because it is absolutely necessary, but because it is convenient to avoid mentioning a subject. It is merely used as a grammatical means. Such construction as “People say that …”or“They say that…”are clumsy, so that“It is said that…”is used to avoid them.

The Japanese passive is different. It is used only when a passive construction is necessary.

In the case of “yodan”verbs the passive voice is formed by adding reru(which has its own inflections) to the negative base(which ends in a)

・・(中略)・・

In Japanese comparatively small number of verbs are used in passive constructions since most sentences may be expressed by the active voice.

 

また、主語が人間ではない「非情の受身」と動作主が非情物の場合についても、次のように述べており、日本語本来のものではない表現で、めったに使われないものであることを述べ、迷惑・被害の受身には言及せず、「雨に降られる」は擬人法・慣用表現としている。

 

An important thing to remember concerning the passive is that the subject of a passive sentence is usually a living thing such as a person, an animal ,an insect, etc. Inanimate objects are seldom used as subjects or agents except when they are personified or idiomatically used Ame ni hurareru is an example of an idiomatic construction.Further examples are:

Kono sinbun wa hiroku yomarete imasu.

This newspaper is widely read.

Kaze ni hukarete hana ga tirimasita.

Blown by the wind flowers have fallen.

Ano hito no namae wa yoku sirarete imasu.

His name is well known.

 

このように、『FLN』では、日本語と英語の受動表現の違いに着目しながら受身文を展開している。この方針は、Naoe NAGANUMA(1950)『Grammar & Glossary』及びNaoe NAGANUMA(1950)『BASIC JAPANESE COURSE』でも同様である。

 

また、『FLN』の大きな特色として、Substitution Tableと呼ばれる置換表をそれぞれの課に配置していることがあげられる。これは基本的なものから順に並べた文型練習用のテキストであることを示している(注2)。以下、41課の置換表と例文を示してみる。

 

Oziisan ni sikara-

Syuzin ni tanoma-

Hito ni warawa-

Dorobo ni nusuma-

Ame ni hura-

-remasita.

-reru desyo.

-reso desu.

-renaide kudasai.

-retaku wa arimasen.

 

1.Oziisan ni sikararemasita.                        I was scolded by grandfather.

2.Shuzin ni tanomaremasita.                       I was asked by the master.

3.Hito ni warawaremasita.                           I was laughed at by people.

4.Dorobo ni nusumaremasita.                      I was robbed by a robber.

5.Ame ni huraremasita.                               I was caught in the rain.

6.Oziisan ni sikarareru desyo.                     You will be scolded by grandfather.

7.Syuzin ni tanomareru desyo.                    You will be asked by the master.

8.Hito ni warawareru desyo.                        You will be laughed at by others.

9.Dorobo ni nusumareru desyo.                   You will be robbed by a robber.

10.Ame ni hurareru desyo.                          You will be caught in the rain.

  1. Oziisan ni sikarareso desu. We are likely to be scoled by grandfather.
  2. Syuzin ni tanomareso desu. We are likely to be asked by the master.
  3. Hito ni warawareso desu. We are likely to be laughed at by people.
  4. Dorobo ni nusumareso desu. We are likely to be robbed by a robber.
  5. Ame ni hurareso desu. We are likely to be caught in the rain.
  6. Oziisan ni sikararenaide kudasai. Please don’t get scolded by grandfather.
  7. Syuzin ni tanomarenaide kudasai. Please don’t be asked by the master.
  8. Hito ni warawarenaide kudasai. Please don’t be laughed at by people.
  9. Dorobo ni nusumarenaide kudasai. Please don’t be robbed by a robber.
  10. Ame ni hurarenaide kudasai. Please don’t be caught in the rain.
  11. Oziisan ni sikararetaku wa arimasen. I don’t want to be scoled by grandfather.
  12. Syuzin ni tanomaretaku wa arimasen. I don’t want to be asked by the master.
  13. Hito ni warawaretaku wa arimasen. I don’t want to be laughed at by others.
  14. Dorobo ni nusumaretaku wa arimasen. I don’t want to be robbed by a robber.
  15. Ame ni huraretaku wa arimasen. I don’t want to be caught in the rain.

 

これらの置換表の例のローマ字書きを漢字仮名交じり文に直すと、「おじいさんに叱られました」「主人に頼まれるでしょう」「人に笑われそうです」「泥棒に盗まれないでください」「雨に降られたくはありません」となり、次のことが指摘できる。

○「れる・られる」で受身を作る。

○受身はニ格で動作主を示す。

○受身表現と会話の「です・ます」表現、依頼表現、推量表現、意志表現を重視する。

○会話を扱っているので、受身文の主語を省略する。

○いずれも例文は、会話に多い迷惑の受身の例である。

 

42課の可能を扱っている課でも受身についての言及があり、可能動詞はpassive formとして扱い、非情の受身はめったに使わないことを示し、日本語特有の受身として自動詞の受身について述べ、それらは迷惑・被害の受身となっていることを以下のように述べている。

 

 

Dictionary form         Passive form

taberu                 tabe-rareru

akeru                 ake-rareru

miru                   mi-rareru

kiru                   ki-rareru

Minasan ni homeraremasu.

He(or She) is praised by everybody.

However, as was mentioned already inanimate objects are seldom used as subjects are seldom used as subjects of passive sentences.In Japanese, even such a sentence as “This fish is eaten”sounds strange. “The book is opened”is practically impossible.

・・中略・・

One characteristic point of the Japanese passive which is totally different from English is that Japanese intransitive verbs can be made passive.In such a case it means that the subject of a sentence gets the effect or sesult of an action by another.

Watakusi wa okyaku ni koraremasita.

“I was come by a guest”is impossible in English, but the above is a perfectly good Japanese sentence. It means that I get the effect of a guest’s coming, hence “A guest came”(to my regret).

Kodomo ni nakarete komarimasita.

I was quite troubled by the child’crying.

Anokata wa okusanni sinarete komatte imasu.

He is quite troubled owing to his wife’death.

 

また、この42課では、以下のように受身は可能の意味を伴っているため、受身と可能の見分け方についても述べている。

 

The Japanese passive is often used in a potential sense. To be exact there is a form which denotes potentially, and this form happens to be the same as the passive. Therefore, we have to use our judgment in determing whether the form is passive or potential.

・・中略・・

Generally speaking, a potential sense is more usual in a sentence whose subject is inanimate.

 

また、45課では使役を扱い、以下のように使役受身について述べている。

 

In case the causative is to be used in a passive construction the passive element comes after.

Mazui mono wo tabe-sase-raremasita.

   I was made to eat a tasteless thing.

Zuibun matase-raremasita.

   I was made to wait a long while.

Takai mono wo kawase-raremasita.

   I was made to buy an expensive thing.

 

このように受身動詞の項目で受身をすべて説明せずに、可能動詞の課で「自動詞の受身」「迷惑の受身」、使役動詞の課で「使役受身」について述べる方針をとっていることがわかる。Naoe NAGANUMA(1950)『Grammar & Glossary』は、『FLN』よりも整理された形で解説を施し、関正昭(1997)によると、長沼直兄日本語教育文法の集大成とされ、日本語教科書の文法解説に大きな影響を与えたものであり、『FLN』とほぼ同内容であるが、迷惑・被害の受身については言及していない。また、Naoe NAGANUMA(1950)『BASIC JAPANESE COURSE』は、受身の文型を取り出して整理して並べたもので、細かい説明は省いてある。このように『FLN』は、1952年に『First Lessons in Japanese』と改題されて長沼直兄の著作としてもっとも長く使われたものの一つであり、長沼直兄の受身に関する捉え方を詳しく知るのにも適している。

 

 

2.長沼直兄の日本語教科書における受身の使用状況

 

長沼直兄(1931-1934)『標準日本語読本』を用い、受身の用例調査を行ったところ、次のようになった。表は用例数を示し、有は主語が有情、非は主語が非情であることを示す。

 

 

巻1

巻2

巻3

巻4

巻5

巻6

巻7

巻全体

主語表出

15

有9

非6

31

有7

非24

54

有18

非36

84

有13

非71

99

有26

非73

94

有19

非75

49

有31

非18

426

有123

非303

二格

 

5

 

1

11

10

14

8

8

57

ヲ格

 

2

 

7

6

6

20

13

5

59

カラ格

 

2

 

0

8

3

4

2

2

21

ニヨッテ格

0

 

2

2

4

4

2

2

16

自然的可能

0

 

7

6

14

4

7

5

43

用例数

16

47

79

109

127

115

67

560

(受身の例)

○直接受身

・部首はその位置によって分類され、それぞれに名称がある。(巻2)

・お前はわしに捨てられて却つて仕合せだな。(巻3)

○間接受身

・其処に碇泊してゐる中、土人にボートや船具を盗まれたので、マゼランは此処を泥棒群島と名付けた。(巻3)

・我々ハ暗夜ニ燈ヲ失ヒ、又ハ耳目ヲ奪ハレタ如ク感ズルデアラウ。(巻4)

○自動詞の受身

・丁度其の時飛下りて来た鳥が傷けられた虫をくちばしにくはへた。(巻3)

・うむ、困つた。あんな人に居られちや何も書けやしない。(巻3)

○持ち主の受身

・或時馬をぬすまれた人が別な馬を買いに馬市へ行きました。(巻1)

・而もその悉くが顔面と言はず手足と言はず癩病の為に懐しい我が家を追はれ、定住する所もなく、・・。(巻5)

○非情の受身

・斯クシテ帝国憲法ハ外国ノ例ニ見ルガ如キ何等ノ流血ヲ見ルコトナクシテ発布セラレ立憲政体トナツタ。(巻5)

・世界経済会議は昭和八年六月十二日午後三時厳かに開かれた。(巻6)

○自然的可能の受身

・其ノ記事ハヨク三面記事ト言ハレテ居ルケレドモ、・・。(巻4)

・昔或所に木上りの名人と言はれた人がありました。(巻5)

○使役受身

・家人の手から彼が何を受け取ったか知らないが、懸声と一緒にスパリと手が落ちる代わりに、其の大きな手には一円札がにぎらせられた。(巻2)

※使役受身が少ないのは、近代の特徴である「任ぜられる」「惑わされる」などのように、サ変や使役化している動詞に「らる」が多いためではないかと考えられる。

 

受身の意味的分類で一般に用いられる、「直接受身」「自動詞の受身」「持ち主の受身」「迷惑の受身」「非情の受身」「自然的可能の受身」「使役受身」といった一通りの受身文が出ている。また、動作主の格表示も表に掲げた「二格」「カラ格」「ニヨッテ格」以外にも、「デ」「ニテ」「ニヨリ・ニヨリテ」「ヲ以テ」「ヨリシテ」「ヨリ」「ノ為・ノ為ニ」といった多様な表現が出てくる(注3)。

受身文は、日本語のレベルが上がるほど用例数が多くなる傾向があるため、『標準日本語読本』は巻1の第一部が初級、第2部から巻2が中級・上級に該当するため、そこまでに一通りの受身の形は揃い、巻5までは、巻を追うごとに受身文が増加しているので、レベル別の意識がなされているといえる。巻6(文型練習中心)と巻7(手紙文中心)は、『再訂標準日本語教科書』の際には、再版されなかったものであり、巻5までで完結していると受身文の用例数からも考えることもできる。

また、近代文語文による漢文訓読調の漢字カタカナ交じり文では、受身の用例が頻出し、主語の表出率及び非情の受身の比率が高い(注4)。このことは、近代文語文による漢文訓読調の文章は、一種の翻訳日本語であることを反映していると考えてよいであろう。

 

 

3.長沼直兄に影響を与えた西洋人の研究と洋学者の受身記述

 

長沼直兄は、日本語教授法の面では音声を重視するパーマーの影響を受けていることは広く知られ、長沼直兄の論文やエッセイの中でも、たびたび紹介されているが、関正昭(1997)では、文法面において、「は」「が」「て」「た」等を取り上げ、長沼直兄は西洋人の日本語研究の影響が見られることを指摘している(注5)。そこで、主な西洋人による日本語研究の受身記述と、日本人の洋学者の受身記述とを比較してみることとする。

 

3.1西洋人の受身記述

 

西洋人の本格的な日本語研究は、ロドリゲスから始まり、チェンバレンで完成した形になるとされている(注6)。この流れは、受身記述をたどってもいえることである。以下に受身記述の箇所についてみていくこととする。

 

ロドリゲス

 

ロドリゲス(1604-1608)『日本大文典』では、「れ・られ」によってつくられる「受動動詞」という扱いをしており、動詞の接尾語として扱っている。また、動作主は奪格の「より」「から」「に」で示され、「より」や「に」で示される場合には上品になると説明している。また、「胸を討たるる」「手足を切られた」など、身体の一部を対象とした対格を取る動詞の種類も示し、対格は元の動詞のときにも存在していたもので、間接受身に気付いている記述をしている。自動詞を中性動詞とし、使役受身や受身使役の例もあげられている。

ロドリゲス(1620)『日本小文典』では、細かい受身の記述はなく、第一種活用の動詞には「られ」、第二種及び第三種活用の動詞には「れ」を伴って受動動詞になることを述べている。また、自動詞は受身になることに注目しており、自動詞を中性動詞としている(注7)。

これらロドリゲスの著作は、杉本つとむ(1989)によると、「1825(文政8)年、刊行に百年後に、フランスでランドレス、レミュザの両学者によって仏訳され、これによって、ヨーロッパにおける東洋語学者、日本語学者の間に一大福音旋風をおこすこととなった。」と述べており、幕末の西洋人の日本語研究家にとってロドリゲスの著作は、必読のものとなったことがわかる。

 

コリャード

 

コリャード(1625)『日本文典』では、受動動詞は「れ・られ」で作られることを述べ、受身動詞は可能の意味にも用いるとし、対応する自動詞は中性的意義を持つとする。また、使役動詞の箇所で「させられる」という、使役受身も扱っている。

杉本つとむ(1989)によれば、コリャードの『日本文典』には、ロドリゲスの日本文典を土台にしたことが書かれており、草稿はスペイン語で書かれていたが、刊本はラテン語で書かれていたために、19世紀の学者には読みやすく、利用価値が高かったと述べている。

 

ホフマン

 

ホフマン(1867-1868)『日本文典』では、受動動詞を三つに分類して、「れる・られる」の接続の違いを説明し、日本語では自動詞でも受動表現になり、日本語の受動表現はあからさまなものではなく、受動表現は潜在的に可能の要素を含むと述べている。また、「受動動詞の支配」という言い方をし、動作主は「に」「より」「から」「のために」で示し、対格は目的語として受動表現になってもとどまることを示している。

また、ホフマンの著作に先行するクルチウス(1857)『日本語文典例証』には、「動詞の受動形(ホフマンに依る説明)」とあり、同様の記述になっているが、受動表現は潜在的に可能の要素を含むことには触れられていない。

 

アストン

 

アストン(1872)『文語文典』では、自動詞と他動詞とに分け、「るる」「らるる」で受動動詞を作り、可能動詞にも通じる点と自動詞から受動動詞が作られる点を強調している。

アストン(1873)『口語文典』では、自動詞も受動表現になり、「れる」「られる」で受動動詞を作ることを述べている。また、英語の動作主の「by」を「に」に当てている。

 

ヘボン

 

ヘボン(1886)『和英語林集成 第三版』では、序の箇所に日本語の文法について述べられており、四段・五段活用の例を用いて、軽く受動動詞を表にして触れており、受動動詞は可能動詞の意味にもなるものとしている。

 

チェンバレン

 

チェンバレン(1889)『日本口語文典』では、受身の動詞は対応する自動詞の能動態から得られるとし、第一活用、第二活用、第三活用から成り立ち、不規則動詞を別に扱っている。また、自動詞も受身にできることを述べ、動作主は「に」で示している。なお、受動態は可能態につながることも指摘し、対格の「ヲ」が目的語としてもとのまま残る文は習得が難しいことを述べ、直接目的語につく「ヲ」は注意する必要があるとしている。チェンバレンは日本語の自動詞に注目しており、使役動詞の箇所で使役受身についても扱っている。

チェンバレン(1889)『日本口語文典』では、「英語の受身の動詞の多くは、日本語の自動詞によって翻訳されるはずである。これはその考えが、必ずしも他の行為者の行為を意味しないときに起こる。・・中略・・日本語の受身構文の使用における嫌な点は、明白である。英語の受動態の十中八九は、日本語では今示したような自動詞、または主語のない能動態の構文に訳さなければならないのである。・・中略・・日本語には、一般に英語の受動態や、可能構文によって翻訳できる、多くの種類の動詞があるが、日本語の動詞自体が、正確に話すと、自動詞なのである。」と述べている。

 

このように西洋人の日本語研究では、受動動詞(受身動詞)は可能動詞の意味を含むという視点でとらえられている。そのため、長沼直兄の『FLN』において、受身については受身の課だけではなく、可能の課においても論じていることは、西洋人の日本語研究の影響と考えることができる。

 

3.2洋学者の受身記述

 

国学者の先行研究を幕末の西洋人の日本語研究家は参照したことについては、古田東朔(1977)が論じている。一方で、国学者と洋学者という立場の違いも存在する。そこで、日本の洋学者の受身記述をみてみることとする。明治前期の洋風文典として古田東朔(2002)の指摘する、田中義廉、中根淑、物集高見に加えて、鶴峰戊申、馬場辰猪についてみてみる。

 

鶴峰戊申

 

鶴峰戊申(1833)『語学新書』は蘭文典に依ったもので「現在格」の箇所次のように述べている。

格なるをながるゝといふことは、る居ながらにして、みづからを受くる辞となる也。・・〈中略〉・・れるもるると同格なり。

またふるくはるを延てらくと言へり。・・〈中略〉・・見らくすくなくこふらくのおほきなど。

また万五、又十五などに泣るをなかゆといひ、同二十などに厭れをいとはえといへるなどはみな古語也。

ここでは、動詞の語尾としての「る」と助動詞としての「る」「れる」を、古典の例では区別しているが、口語では区別しないで、同じものとして扱っている。

 

馬場辰猪

 

馬場辰猪(1873)『An elementary grammar of the Japanese language』は英文典に依ったもので、受身はActive Voice に対するPassive Voice としており、可能の意味にもなっていることを指摘しており、西洋人の視点に近いことがわかる。

 

田中義廉

 

田中義廉(1874)『小学日本文典』は蘭文典に依ったもので、以下のように助動詞として扱っている。

生徒ガ教師ニ教ヘラル 木ガ風ニ倒サル などいふときは、生徒及び木は、教師及び風の作動を受くるを以て、これを受動といふなり。他動詞の能動は、本然の形を変することなし。其受動は、ル(被、此詞は有の受動形なり)ラル(有被の約言)なる助動詞と結合す。・・〈中略〉・・ここにル ラル スなる詞は、動詞に結合して、恰も語尾の如くなれども、其実は助動詞にして、他の語尾と全く異れり。

 

物集高見

 

物集高見(年次不詳)『日本文語』はは蘭文典に依ったもので、「作用言」として、他動・自動・対動(他動にも自動にも用い物にはたらきかけるもの)・通動(自動にも他動にも用いるもの)・受動の五つをあげ、「受動について」以下のように述べている。

自他、両性の、能動尾辞のらるを加尾せらるるに依りて成る者なり。されば、直接、間接の両態ありて、直接は、直に、其の業作の、其の人に帰する者にして、間接は、其の業作の他者に帰する者なり。・・中略・・また、受動は、専ら、他動より来たると雖も、自動も、対動に用ひられたるは、間接の態にては見はるるなり。

このように、動詞の語尾としてとらえており、直接受身と間接受身にわけ、自動詞の受身を間接受身としていることがわかる。

 

中根淑

 

中根淑(1876)『日本文典』は英文典に依ったもので、受身の「る・らる」は主客が変化すると考えて、以下のように動詞の語尾として扱い「逆用動詞」としている。

逆用動詞ノ例ヲ挙ゲテ云ハバ、余人ニ頼マル・人余ニ導カル・ト云フ類ニテ、前文ハ主ノ余ガ客ノ人ヨリ働キヲ受ケ、後文ハ主ノ人ガ客ヨリ働キヲ受クルノ故、共ニ之ヲ逆用動詞トスルナリ。

 

このように明治前期の洋風文典においては、「る・らる」「れる・られる」を動詞の語尾とするものと助動詞とするものとがあることがわかる。国学の系統とロドリゲス以降の西洋人の日本語研究では、「る」「らる」を動詞の語尾として扱ってきた。

このような流れの中で、大槻文彦(1897)が助動詞とし、Voiceを「相」と訳し、受身を「所相」、可能を「勢相」と訳すことで、方向性を決定づけた。この大槻文彦(1897)の考えが学校文法に取り入れられることとなり、主流となったといわれている(注8)。

斉木美知世・鷲尾龍一(2012)では、助動詞という概念を用いたことは日本的な発想であり、Voiceを動詞の形態によらずに、相として助動詞として説明するのがよいと大槻文彦は判断したためであるとしている。

このように長沼直兄と西洋人の日本語研究家、国学者の捉え方を考慮すると、日本語教育の場合には、TSUKUBA LANGUAGE GROUP(1991-1992)『SITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE VOLUME1-3』(以下略称、『SFJ』)のように、積極的に「受動動詞」「使役動詞」として一語化で扱った日本語教科書も学習の上では効果的であるといえる。

 

 

結び

 

以上述べたことから、結びとしてまとめてみる。

1.長沼直兄の日本語教科書受身記述の特徴

○「れる・られる」で受身を作ると述べる。

○受身はニ格で動作主を示すとする。

○受身表現と会話の「です・ます」表現、依頼表現、推量表現、意志表現を重視する。

○会話を扱っているので、受身文の主語を省略する。

○いずれも会話に多い迷惑の受身の例である。

○非情の受身や動作主が非情物は、日本語本来の表現ではないとする。

○可能動詞の課で「自動詞の受身」「迷惑の受身」、使役動詞の課で「使役受身」を扱っている。

○受身動詞には可能動詞の意味を含むとしている。

  1. 長沼直兄の日本語教科書における受身の使用状況

○巻1から巻5は一つの完結したものと考えられ、文章のレベル別の意識が十分にあらわれている。

○受身の多様な形があらわれており、十分に学習することができる。

○近代文語文による漢文訓読調の文では、受身の用例が頻出し、主語の表出率及び非情の受身の比率が高く、一種の翻訳日本語であることを反映していると考えてよい。

  1. 長沼直兄に影響を与えた西洋人の研究と洋学者の受身記述

○ロドリゲスからチェンバレンまで、先行研究を積み上げる形で記述されていることがわかる。共通項として、動詞を接尾語として扱い「受動動詞(受身動詞)」とし、可能動詞とつながるものととらえ、自動詞から受身が作られ、対格(直接目的語)の存在に注意していることがわかる。これらの発想は、伝統的な国語学の流れも考慮しながら、長沼直兄の日本語の受身記述にも生かされている。

○日本の国学者と西洋人の日本語研究との共通点として、「る・らる」「れる・られる」を接尾語として扱い、動詞の一部に組み入れて考えることがあげられる。一方、日本の洋学者は「る・らる」「れる・られる」を助動詞として扱ったり、扱わなかったりとさまざまなであり、大槻文彦が学校文法で助動詞とする流れを作ったが、諸説あり、議論の残るところである。むしろ、日本語教育の場合には、『SFJ』のように、積極的に「受動動詞」「使役動詞」として一語化で扱った日本語教科書も学習の上では効果的であるといえる。

 

 

1

丸山敬介(1997)は、『標準日本語読本』(1931-1934)は7巻から成り、巻1から巻7までを、「巻1の第1部は初級レベル、巻1の第二部は中級レベル、巻2は中級後半から上級レベル、巻3から巻7では生のものを扱っている」と述べている。また、平高史也(1997)は、「巻1から巻7までの7巻で、初級から超上級(巻5、巻6に見られる古文の読み方、巻7に収められている手紙文の書き方などは日本語母語話者に対してでも使えそうである)を扱っている」と述べている。なお、『改訂標準日本語読本』(1948)では、巻8に「漢文の初歩」「平易な古文」「高級な口語」を入れ8巻から成り、『再訂標準日本語読本』(1964-1967)では巻1から巻5までの5巻にしている。このことについて、丸山敬介(1997)は、「超上級段階の学習者の少なさから再訂は巻5までにとどまっている」と述べている。

2

河路由佳(2010)は、『FLN』について、「長沼直兄(1894-1973)の著作の中でも最も長く使われたものの一つである。今日では行動主義や構造主義によって理論的に裏付けられるSubstitution Table(置換表)を主として構成された教材で、長沼直兄は、同じ方法を英語教育に応用した教材も作成している。Substitution Tableは、長沼直兄がその外国語教育に従事した初めに強い印象を受け、生涯にわたってその日本語教育の実践に活用し続けたものであった。」と述べている。また、長沼直兄が大きな影響を受けたとされるH.E.Palmer(1936)の著作でも置換表が採用されている。

3

 

巻1

巻2

巻3

巻4

巻5

巻6

巻7

巻全体

ニヨリ(テ)

0

0

0

3

0

3

0

6

ノ為(ニ)

0

0

3

1

2

2

2

10

 

0

0

0

2

0

0

0

2

ニテ

 

0

0

0

0

0

1

0

1

ヲ以テ

 

0

0

0

1

1

1

0

3

ヨリシテ

0

0

0

0

1

0

0

1

ヨリ

 

0

0

0

0

1

2

0

3

※このように動作主の格表示が多様な日本語教科書は、現代ではみられないものである。管見に入るかぎり、近代でもこれほど動作主の格表示の多様な日本語教科書はみられない。このことは、近代文語文を始めとする様々な文章を収めているためであると考えることができる。

4

近代文語文による漢文訓読調の漢字片仮名交じり文は、『標準日本語読本』の巻1から巻7の全体の用例数として80例あり、主語の表出は73例(有情11例・非情69例)で、格表示は、ニ格4例・ヲ格9例・ニヨッテ格3例・カラ格1例・自然的可能1例である。また、ノ為(ニ)1例・デ0例・ニテ0例・ヲ以テ2例・ヨリシテ1例・ヨリ0例である。

5

関正昭(1997)は、以下のように今日の日本語教育文法に至る流れを以下のように5つにまとめている。

  1. 16‐17世紀のロドリゲス、幕末・明治期のホフマン、S.R.ブラウン、アストン、サトウ、チェンバレンら外国人日本語研究家の文法
  2. 中国からの留学生のために、松下大三郎・松本亀次郎らが考案された文法
  3. 旧植民地・占領地に対する日本語普及のための教材開発の一環として考案された文法
  4. 戦前自ら開発した教科書シリーズとそのグラマーノートが大戦下のアメリカに大々的に用いられ、世界的に広まった長沼直兄の文法(その文法は戦後初期に集大成され、戦後の「日本語教育文法」の基幹となった)
  5. ③を継承して戦後の日本語教育への橋渡しをし、同じく戦後の「日本語教育文法」の基盤作りをした鈴木忍の文法678「この中で、「す・さす」と「る・らる」の類を「助動詞」に含めたことは、以後問題とされる。山田孝雄橋本進吉も、この類が他の類のものとは異なったものであることを指摘し、時枝誠記は、「助動詞」から除外し、接尾語として扱う。(江戸期の他の国学者たちも、これらの付いた動詞を一語として扱うのが普通であったし、幕末から明治へかけての外国人の日本語研究者たちも、その付いたものをcausative verb あるいは potential(passive) verb などとするのが普通であった。)」 アストン(1872)『文語文典』京都大学法学部図書室蔵[テキストは李長波編(2010)『近代日本語教科書選集 第9巻』クロスカルチャー出版]H.E.Palmer(1936)『Conversational English(英会話の理論と実際)』開拓社大槻文彦(1897)『廣日本文典』[テキストは復刻版(1980)『廣日本文典・同別記』勉誠社]河路由佳(2008)「長沼直兄らによる戦後早期の日本語教育のための調査研究-1945-1946年「日本語教育振興会」から「言語文化研究所」へ(その2)」『日本語教育研究』第53号河路由佳(2011)「1942年・1943年における長沼直兄の出版計画-「重要文書」と書かれた長沼直兄自筆ノートより-」『日本語教育研究』第57号クルチウス(1857)『日本語文典例証』[テキストは三澤光博訳(1971)『クルチウス 日本文典例証』明治書院]斉木美知世・鷲尾龍一(2012)『日本文法の系譜学-国語学史と言語学史の接点-』開拓社杉本つとむ(1989)『西洋人の日本語発見』創拓社[杉本つとむ(2008)『西洋人の日本語発見』講談社学術文庫に再収録]鈴木泰・清水康行・古田啓(2010b)『古田東朔 近現代日本語生成史コレクション 第4巻』くろしお出版田中義廉(1874)『小学日本文典』東京書林TSUKUBA LANGUAGE GROUP(1991-1992)『SITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE VOLUME1-3』凡人社土井忠生・森田武・長南実(1980)「解題」『邦訳日葡辞書』岩波書店Naoe NAGANUMA(1950)『Grammar & Glossary』開拓社長沼直兄(1931-1934)『標準日本語読本』財団法人言語文化研究所長谷川恒雄(1997)「長沼直兄著『標準日本語読本』に至るまでの途」『(財)言語文化研究所日本語教育叢書 復刻シリーズ第一回 解説』(財)言語文化研究所平高史也(1997)「教授法の面から」『(財)言語文化研究所日本語教育叢書 復刻シリーズ第一回 解説』(財)言語文化研究所古田東朔(1971)「ホフマンとヘボンの相互影響」『蘭学資料研究会 研究報告』第252号古田東朔(1977)「ホフマンの『日蘭辞典』『日英辞典』」『国語学』108集古田東朔(1978b)「ホフマン『日本文典』の刊行年について」『国語国文論集』第7号古田東朔(2002)「明治前期の洋風日本文典」『国語と国文学』第79巻第8号ホフマン(1867-1868)『日本語文典』[テキストは三沢光博訳(1910)『日本語文典』明治書院]物集高見(年次不詳)『日本文語』[テキストは物集高量(1935)『物集高見全集 第三巻』物集高見全集編纂会]ロドリゲス(1620)『日本小文典』[テキストは日埜博司編訳(1993)『日本小文典』新人物往来社
  6.  
  7. ロドリゲス(1604-1608)『日本大文典』[テキストは土井忠夫訳(1955)『日本大文典』三省堂]
  8. 丸山敬介(1997)「構成とシラバスの点から見た『標準日本語読本』」『(財)言語文化研究所日本語教育叢書 復刻シリーズ第一回 解説』(財)言語文化研究所
  9. ヘボン(1886)『和英語林集成 第三版』三省堂[テキストは講談社学術文庫版]
  10. 古田東朔(1981)「大槻文彦の文法」『月刊言語』第10巻第1号
  11. 古田東朔(1978a)「アストンの日本文法研究」『国語と国文学』第55巻第8号
  12. 古田東朔(1974)「アストンの敬語研究-人称との関連について」『国語学』第96集
  13. 古田東朔(1958)「日本に及ぼした洋文典の影響-特に明治前期における」『文芸と思想』第16号
  14. 馬場辰猪(1873)『An elementary grammar of the Japanese language』[テキストは李長波編(2010)『近代日本語教科書選集 第1巻』クロスカルチャー出版]
  15. 中根淑(1876)『日本文典』森屋治兵衛版
  16. Naoe NAGANUMA(1950)『BASIC JAPANESE COURSE』開拓社
  17. N.NAGANUMA(1945)『FIRST LESSONS IN NIPPONGO』開拓社
  18. 鶴峰戊申(1833)『語学新書』[テキストは福井久蔵編(1938)『国語学大系』図書刊行会]
  19. チェンバレン(1889)『日本口語文典』[テキストは丸山和雄・岩崎攝子訳(1999)『日本口語文典』おうふう]
  20. 関正昭(1997)「日本語教育文法の流れ-戦前・戦中・戦後初期-」『(財)言語文化研究所日本語教育叢書 復刻シリーズ第一回 解説』(財)言語文化研究所
  21. 鈴木泰・清水康行・古田啓(2010a)『古田東朔 近現代日本語生成史コレクション 第3巻』くろし出版
  22. 財団法人 言語文化研究所(1981)『長沼直兄日本語教育』開拓社
  23. コリャード(1625)『日本文典』[テキストは大塚高信訳(1957)『日本文典』風間書房]
  24. 河路由佳(2012)「長沼直兄の戦前・戦中・戦後-激動の時代を貫いた言語教育者としての信念を考える-」『日本語教育研究』第58号
  25. 河路由佳(2010)「長沼直兄(1945)『FIRST LESSONS IN NIPPONGO』の成立と展開-長沼直兄の戦中・戦後-」『東京外国語大学論集』81号
  26. 河路由佳(2007)「長沼直兄による敗戦直後の日本語教師養成講座-1945年度後半・「日本語教育振興会」から「言語文化研究所」へ」『日本語教育研究』第52号
  27. H.E.パーマー、野田育成訳(1989)『言語学習の原理』リーベル出版
  28. アストン(1873)『口語文典』京都大学法学部図書室蔵[テキストは李長波編(2010)『近代日本語教科書選集 第9巻』クロスカルチャー出版]
  29. 参考文献
  30.  
  31. 古田東朔(1981)では、「る・らる」「す・さす」について次のように指摘している。
  32. 土井忠生・森田武・長南実(1980)は、「日葡辞書で能動動詞または受動動詞と注記したものは、前記“敷カルル”以外はすべて同一語根の他動詞と自動詞とを関連づけて説いたものである。その部類の自動詞を他動詞の受動態ということは日本語に合わないので、ロドリゲスは中性動詞として受動動詞からは切り離して取り扱った。しかし一般には、これら自動詞も葡語では他動詞の受動態に訳されるところから、受動動詞と呼んでいたので、日葡辞書の編者たちがそれを踏襲したのである。」と述べている。
  33. 古田東朔(1977)は、明治末期までの外国人の日本語研究を、第一期をロドリゲス、第二期をホフマン、第三期をヘボンとアストンの三期に分けている。これらは思弁的な方法や実際的な方法の差になってあらわれているとしている。古田東朔(1977)では、アストンはホフマンの研究や日本人の国学者の先行研究を参照しているため、高く評価している。また、杉本つとむ(1989)は、ホフマンは遣欧使節をライデンに迎え生きた日本語を耳にし、さらにはシーボルトとホフマンの出逢いにより、ホフマンはシーボルトの弟子となり、その才能を開花させ、収集資料を十分に活用させたとして、ホフマンを中心とする論を展開している。
  34. このうち、①のS.R.ブラウンとアーネスト・サトウは、受身についての詳細を示していないため、本稿では取りあげなかった。また、③と⑤の国際学友会の日本語教科書は、長沼直兄の日本語教科書と双璧をなすものであるが、その比較・考察は、今後の課題としたい。

ビジネス基礎の一考察

2019年7月27日(土)

國學院大學日本語教育研究会

(於國學院大學)口頭発表資料

 

『ビジネス基礎』の一考察

-高等学校商業科教科書の活用-

 

國學院大學兼任講師

大東文化大学非常勤講師

西帝京学苑講師

岡田 誠

 

 

 

現在、ビジネス教育の必要性は高まっている時代である。ビジネス書も広く流通している。しかし、体系的なビジネスを考えたとき、そのモデルを示した書籍は数少ない。そのため、ビジネスとはいうものの、分野別に考えざるをえないといってよいであろう。しかし、ビジネスは相互に関連するものである。それらを俯瞰するのは大切なことではなかろうか。その意味で、高等学校商業科で必須科目とされている「ビジネス基礎」という科目は、その体系性を示しており、ビジネスの分野を手掛ける際の入門として有効であると考える。以下、「ビジネス基礎」という科目の教科書である『ビジネス基礎』をビジネスの体系的なものとして中心に据えて考察していく。

 

0.ビジネス基礎とは何か

 

ビジネス基礎とは何であろうか。ビジネススクールで知られ、MBAを発行しているグロービス経営大学院では、若手ビジネスパーソンからの質問で「何から学びはじめたらよいか」という受講生の質問が多数あり、それに応える形で執筆されたのが、グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』(東洋経済新報社)である。「20年を超えるグロービスの教育現場の中で、繰り広げられてきた延べ7万人以上のビジネスパーソンとの会話、社会人学生のクラス内での状況などを観察する中で特に重要だと考えている10の力は次の通りです」(p.5)として、以下のものを示している。

 

グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』東洋経済新報社

1.論理思考力 2.コミュニケーション力 3.仮説構築力

4.情報収集力 5.データ・情報収集力 6.次の打ち手を考える力

7.プレゼンテーション力 8.周囲を巻き込む力 9.チームを作る力

10.志を育てる力

 

次に、高等学校商業科の教科書ではどのようにビジネス基礎を扱っているのであろうか。高等学校商業科では、「ビジネス」という言葉のつく科目が6科目ほどあり、その中でも「ビジネス基礎」が基礎科目、「ビジネス実務」「課題研究」「総合実践」が総合科目になっている(注1)。「ビジネス基礎」は後に学ぶ「マーケティング分野」(マーケティング・商品開発・広告と販売と促進)・「ビジネス経済分野」(ビジネス経済・ビジネス経済応用・経済活動と法)・「会計分野」(簿記・財務会計Ⅰ・財務会計Ⅱ・原価計算管理会計)・「ビジネス情報分野」(情報処理・ビジネス情報・電子取引・プログラミング・ビジネス情報管理)の四分野の基礎を扱ったものである。『ビジネス基礎』の教科書の出版社は、実教出版・暁出版・東京法令出版の三社である(注2)。以下に出版社ごとに目次を示してみる。

 

『新ビジネス基礎』暁出版・2018年・144暁商業302

第1章 商業のガイダンス 第2章 ビジネスと売買取引

第3章 経済と流通の基礎 第4章 企業活動の基礎

第5章 ビジネスとコミュニケーション

 

『ビジネス基礎 新訂版』実教出版・2018年・7実教商業334

1章 商業の学習ガイダンス 2章 経済と流通の基礎

3章 ビジネスの担い手 4章 企業活動の基礎

5章 ビジネスと売買取引 6章 売買に関する計算

7章 ビジネスとコミュニケーション

 

『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版・2018年・190東法商業335

第1章 商業の学習ガイダンス 第2章 ビジネスとコミュニケーション

第3章 経済と流通の基礎 第4章 企業活動の基礎

第5章 ビジネスと売買取引

 

第1章の商業のガイダンスのあとの目次をみると、提出順序に大きな違いがあることがわかる。暁出版と実教出版のものはビジネスの基礎的な知識を提示した上で、それぞれ最終章に「ビジネスとコミュニケーション」が示してある。それに対して、東京法令出版は第2章で「ビジネスとコミュニケーション」を扱っている。東京法令出版の教科書は、コミュニケーションを早い段階で習得させるタイプのものであることがわかる。

 

公益財団法人・日本漢字能力検定協会の実施している、「BJTビジネス日本語能力テスト」がある。これは現在では、外国人が日本で働くための日本語によるビジネスコミュニケーション能力測定試験として定評がある(注3)。BJTビジネス日本語能力テスト準拠として編集された、本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』では、以下の章立てで構成されており、実践的なビジネスとコミュニケーションであることがわかる(注4)。

 

第1部 基礎編

1.1 ビジネス会話の基本 1.2 社会人としての言葉づかい

1.3 「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の違い 1.4 覚えておきたい慣用句

第2部 ビジネス編

2.1 ビジネスで用いるあいさつ(部内、社外) 2.2 社内で使うあいさつ

2.3 社外で使うあいさつ 2.4 名刺交換

2.5 遅刻、欠勤、早退などの連絡

2.6 仕事の開始(指示の受け方、メモの取り方)

2.7 電話の受け方、かけ方 2.8 メールの書き方

2.9 会議/ミーティングを行う(準備、会話、議事録など)

2.10 来客への対応(ご案内、受付)

2.11 アポイントを取る(場所や時間を決める、変更)

2.12 取引先への訪問(受付、面会、新商品の案内)

2.13 社外向けのビジネス文書 2.14 社内向けのビジネス文書

第3部 ビジネス用語辞典

3.1 自分や会社の呼び方 3.2 組織名の呼び方 3.3 部署名の呼び方 

3.4 役職名の呼び方 3.5 主なビジネス用語

 

以下、『ビジネス基礎』と『ビジネス日本語マスターテキスト』を一次資料として考察していく。

 

1.重要語句の選択

 

実教出版と暁出版には、重要語句のまとめが章ごとの区分けで掲載されている。以下にその用語を掲載し、暁出版と実教出版とでほぼ共通して示されている用語については太ゴチックで示してみる。なお、東京法令出版にはまとめはついていない。

 

【暁出版】・・110

(1章 商業の学習ガイダンス)

商品流通経済ビジネス・運送・保管・情報・保険・生涯学習

(2章 ビジネスと売買取引)

売買取引・売買契約・銘柄・現場渡し価格・持ち込み価格・F.O.B.価格・C.I.F.価格・前払い・後払い・見積依頼書・注文書・納品書検収請求書領収証小切手不渡り線引小切手約束手形為替手形・手形の裏書き・遡求・クレジットカード電子マネー・振り込み

(3章 経済と流通の基礎)

企業家計政府・ミクロ経済・マクロ経済・国際経済・生産の3要素・トレードオフ機会費用・高度消費社会・ブランド管理・サービス経済化・インターネットのインフラ整備・加工貿易バイオマス・食品のトレーサビリティ・有機農法クラスタービジネス・冷温輸送・人的隔たり場所的隔たり時間的隔たり・情報の隔たり・POSシステム・EOS・ストアオートメーション・製販同盟・知的財産権コンプライアンス商的流通・金融・普通銀行の主要な業務・物的流通・ロジスティツクス・セキュリティ・ファイアウォール・認証システム・個人情報

(4章 企業活動の基礎)

有限責任無限責任・私企業・株式会社・株主総会・協同組合・公企業・公私合同企業・経営組織・水平的分化・垂直的分化・ライン組織・ラインアンドスタッフ組織・マトリックス組織・企業金融・証書借入・手形借入・手形割引・当座借越・法人税・消費税・福利厚生

(5章 ビジネスとコミュニケーション)

就業規則ビジネスマナーバーバルコミュニケーション・ノンバーバルコミュニケーション尊敬語謙譲語丁寧語・美化語・投資家向け広報・マスメディア・情報管理・ファイリング・ハッカー・クラッカー・ユーザーID

 

実教出版】・・155

(2章 経済と流通の基礎)

商品・消費・生産・流通経済・経済主体・家計企業政府・付加価値・ビジネス・ニーズ・土地・資本・労働力・生産要素・生産要素の希少性・トレード=オフ機会費用・需要・供給・サービス経済化・情報セキュリティ・情報モラル・情報リテラシーグローバル化・ローカライゼーション・ユニバーサルデザイン人的隔たり場所的隔たり時間的隔たり商的流通物的流通(物流)・流通機構・流通経路・収集機能・分散機能・仲継機能・生活用品・産業用品・業種・セルフサービス方式・業態・プライベートブランド商品・電子商取引(EC)・潜在顧客・O2Oショールーミング顧客満足マーケティング

(3章 ビジネスの担い手)

製造物責任法・ブランド・アウトソーシング・商圏・一般小売店・専門店・百貨店(デパート)・対面販売・総合スーパー・スーパーマーケット・生鮮三品・コンビニエンスストア・都市型小規模スーパーマーケット・ホームセンター・通信販売・商店街・ショッピングセンター・コーポレートチェーン・ボランタリーチェーンフランチャイズチェーン・集散地卸売業者・元卸売業者・商社・輸送・保管・包装・流通加工・荷役・ロジスティックス・中央銀行・預金業務・貸出業務・為替業務・保険料・保険金・保険者・保険契約者・被保険者・インターネット=サービス=プロバイダ

(4章 企業活動の基礎)

経営理念・株式会社・株式・定款・株主総会・取締役会・監査役・出資と経営の分離・運転資金・設備資金・クラウドファンディング法人税・住民税・事業税・固定資産税・消費税・申告納税方式・雇用契約・終身雇用・成果主義賃金制度・労働組合・企業倫理・コンプライアンスコーポレートガバナンス

(5章 ビジネスと売買取引)

売買契約・建と建値・現場渡し価格・持ち込み渡し価格・見積り・見積依頼書・注文書・納品書検収請求書領収証小切手不渡り線引き小切手約束手形・預金の振替・銀行振込・クレジットカードデビットカード電子マネー

(6章 売買に関する計算)

仕入諸掛・仕入原価・値入れ・度量衡・換算・利息・片落とし・両端入れ

(7章 ビジネスとコミュニケーション)

直接的コミュニケーション間接的コミュニケーションビジネスマナー尊敬語謙譲語丁寧語・顧客データ・営業マニュアル・引用・個人情報保護法

 

暁出版では「ミクロ経済」「マクロ経済」という経済学との視点の用語が掲載され、実教出版では「経営倫理」「企業倫理」という用語が掲載されているのが特徴的である(注5)。

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』の主なビジネス用語では、以下の183語が取り上げられている。

 

相見積もり・粗利・育児休暇・意思決定・異動・売上・売り上げ・売掛・営業・

営業利益・会釈・卸売・卸値・買掛・外勤・解雇・会社・掛率・課題・葛藤・架電・株主・仮配属・管理職・機会損失・期日・帰社・既存客・基本給・休日・給料・教育・業界・競合・業種・業績・競争・経営・計画・景気・経済・経費・系列・月給・欠勤・決済・決算・原価・権限・原資・研修・検収・考課・広告・控除・交渉・購買・小売・顧客・個人情報・在庫・財務諸表・削減・残業・時給・自己啓発・試作品・資産・

市場・時短・四半期・資本・使命・締日・社会貢献・受注・出荷・出勤・出庫・出向・仕様・昇格・商圏・商社・昇進・商談・消費者・商標・商品・消耗品・賞与・剰余金・商流・職位・職能・職場・職務・人材・人材育成・進捗・成果主義・請求書・精算・生産・生産性・正社員・成長・成約・整理・責任・専門職・戦略・相殺・早退・退社・貸借対照表・退職・代理店・たたき台・棚卸・単価・遅刻・知的財産・中小企業・

帳票・直帰・直行・通勤・定価・定時・定昇・手形・手取り・転籍・店頭・同行訪問・同調・特許・取締役会・取引・内勤・内部留保・日給・入荷・入庫・値引き・

年末調整・年俸制・年齢給・納期・能力・能力主義・売価・配属・配置・派遣社員・発注・販売・雛形・備品・費用・歩合・付加価値・福利厚生・負債・物流・訃報・

富裕層・振替休日・不良品・方針・法人・見える化・見込客・見積もり・目的・元請・問題・役員・役割・有給休暇・優先順位・予算

(pp.185-212)

 

全体的にみると、実践的な用語が取り上げられているが、ビジネスで使用されるカナカナ用語が掲載されていない点が不足していると感じる。また、「自己啓発」という用語が掲載されているが、ビジネスとモチベーションという意味での関連性であろうか。

 

2.『ビジネス基礎』のビジネスコミュニケーション

 

2.1敬語の扱い

 

「ビジネスとコミュニケーション」では、三社それぞれ、敬語の扱い方に違いがある。以下に示してみる。

 

【暁出版】

尊敬語・謙譲語の言い換え(p.204)『新ビジネス基礎』暁出版

普通

尊敬の表現

謙譲の表現

言う

おっしゃる

申す・申し上げる

見る

ご覧になる

拝見する

聞く

お耳にはいる

うかがう・拝聴する

行く

いらっしゃる

参る・うかがう

来る

いらっしゃる

参る

訪ねて行く

いらっしゃる

おじゃまする

いる

いらっしゃる

おる

する

なさる

いたす

もらう

お受けになる

頂戴する・いただく

与える

たまわる・くださる

さし上げる

 

敬体と最敬体(p.204)

常体

敬体

最敬体

ある

あります

ございます

する

します

いたします

もらう

いただきます

ちょうだいいたします

そうだ

そうです

さようでございます

思う

思います

存じます

 

「お」「ご」の丁寧語としての使い方(p.205)

「お」「ご」をつける場合

「お」「ご」をつけない場合

相手の物事につける

(例)お荷物・お体

相手の行為に敬意を表す

(例)お話・ご意見

相手に関わる自分の行為や物事につける

(例)お礼・ご返事

慣用的につける

外来語や外国語

(例)お(×)スープ・お(×)コップ

慣用的につけない

(例)お(×)靴下・お(×)新聞

公共の建物や施設

(例)お(×)駅・お(×)学校

敬意を表していることば

(例)おはよう・ご苦労さま

(例)ご(×)新郎・お(×)社長

 

実教出版は、敬語が一覧のみで軽く扱われていることがわかる。それに対して、東京法令出版は、接客の実践例として例文で多くしめしていることがわかる。暁出版は敬語の一覧票を充実させていることがわかる。

 

実教出版

敬語の一覧(p.182)『ビジネス基礎 新訂版』実教出版

常体

尊敬語

謙譲語

丁寧語

会う

お会いになる

お目にかかる

会います

言う

おっしゃる

申す

言います

行く

いらっしゃる

伺う・参る

行きます

いる

いらっしゃる

おる

います

帰る

お帰りになる

失礼する

帰ります

聞く

お聞きになる

伺う、拝聴する

聞きます

来る

おこしになる

伺う、参る

来ます

する

なさる

いたす

します

食べる

召し上がる

いただく

食べます

見る

ご覧になる

拝見する

見ます

 

東京法令出版

ビジネス慣用敬語(p.27)『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版

「いつもお世話になっております」「お待たせいたしました」「恐れ入ります」

「申し訳ございません」「席をはずしております」「ただ今」「後ほど・先ほど」

「かしこまりました」「よろしいでしょうか」「存じかねます」「いかがなさいますか」

「いかがいたしましょうか」「さようでございます」「ちょうだいいたします」

「お手数ですが」

敬語の例(p.33)

行為

尊敬語

謙譲語

丁寧語

する

なさる・される

いたす

します

見る

ご覧になる

拝見する

見ます

言う

おっしゃる

申す

言います

食べる

召し上がる

いただく

食べます

来る

いらっしゃる

参る

来ます

いく

 

 

 

いる

 

 

 

 

七大接客用語と留意点(p.35)

接客用語

留意点

いらっしゃいませ。

心から歓迎し、アプローチのきっかけをつくる。

はい、かしこまりました。

顧客の呼びかけに即答する。

少々お待ちくださいませ。

数分でも待たせることは、顧客にとって苦痛であることを認識する

お待たせいたしました。

お詫びの心をあらわし、対話再開のきっかけとする(包装後の商品を渡すときも)。

ありがとうございます。

心をこめた感謝をあらわす

申し訳ございません。

品切れ、数量不足などがあった場合、丁重に詫びるとともに他の商品をすすめるか再度の来店を促す。

恐れ入りますが・・。

相手に行動を促したり、行動をやめてもらう。

 

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』(pp.26-30)では、以下の一覧表を示しでいる。会話重視のため、丁寧語・尊敬語・謙譲語の順に示し、それぞれの敬語の使い方も紹介してあり、会話例も示してあり実践的である。この敬語の作り方は日本人母語話者も苦手な面があるので、活用したいところである。

 

原形

丁寧語

尊敬語

謙譲語

言う

言います

おっしゃる

申し上げる

話す

話します

お話になる

お話しする

聞く

聞きます

お聞きになる

お聞きする、拝聴する

見る

見ます

ご覧になる

拝見する

する

します

なさる

いたす

行く

行きます

いらっしゃる

参る、伺う

来る

来ます

お越しになる

参る

いる

います

いらっしゃる

おる

食べる

食べます

召し上がる

いただく

あげる

あげます

くださる

差し上げる

読む

読みます

お読みになる、読まれる

拝読する、お読みする

借りる

借ります

お借りになる、借りられる

拝借する、お借りする

知る

知ります

ご存知

存じ上げる

 

(丁寧語の使い方)

-です                      3個だ→3個です

-ます                      行く→行きます

-ございます             ありがとう→ありがとうございます

「お」を付ける          名前→お名前

(尊敬語の使い方)

お-になる                お出かけになる、お書きになる、お使いになる

ご-になる                ご覧になる、ご利用になる

-れる                      話される、行かれる、飲まれる

-られる                   出られる、来られる、送られる

(謙譲語の使い方)

お-する                   お迎えする、お持ちする、お借りする

ご-する                   ご案内する

言い換え                   見る→拝見する

                                      言う→申し上げる

 

2.2名刺交換の記述

 

ビジネスの現場で行われる名刺交換の記述が、出版社ごとに異なる。特に実教出版の記述では、同時に名刺交換を行う記述があるのが特徴的である。

 

【暁出版】p.198

相手が入室したら、立ち上がってあいさつする。初対面の場合には名刺を交換する。名刺は自分のものであるあっても相手のものであっても丁寧に扱う。専用の名刺入れを用意しておく。

名刺は訪問した側から先に出す。相手に読める向きで差し出し、会社名・部署名・役職・氏名を名のる。

名刺を受け取る場合は、必ず両手で受け取り、丁寧に扱う。受け取った名刺は用件が終わるまでテーブルの上などに置き、用談が終了したときに名刺入れなどにしまう。

なお、訪問日時や用件、相手の特徴などを簡単にメモしておくと後で役に立つことがある。

 

実教出版p.181

受け渡しは目下のものが先に出すのが一般的なルールです。相手から先に出されたら、「申し遅れました」と一言そえて名刺を差し出します。名刺の交換は両者が立って行うのがマナーです。

名刺を渡すときは、直接両手でさし出します。名前に指がかからないように持つのがマナーです。受け取るときも同様です。

同時に交換する場合は、右手で自分の名刺をさし出し、左手で相手の名刺を受け取ります。そして、引き寄せながらもう片方の手をそえ、両手で持ちます。受け取った名刺はすぐにしまわず、しばらくテーブルの上においておきます。名刺の上に書類がのらないようにします。

 

東京法令出版p.28

「はじめまして」

ビジネス上、立場が下の人が先に名乗りながら、相手の名刺入れの上に名刺を差し出す。

下位者「私、(〇〇社の)〇〇と申します。よろしくお願いいたします」

上位者「ちょうだいいたします」

次に立場が上の人が、名乗りながら名刺を渡す。

下位者は、名刺入れの上で両手で受け取る。

〈立場を替えて同じセリフ〉

上位者「私、(〇〇社の)〇〇と申します。よろしくお願いいたします」

下位者「ちょうだいいたします」

もらった名刺の基本的な持ち方は、名刺入れの上に重ねて、両手で胸の高さ、身体の中央で持つ。席をすすめられたときは、まず名刺を机の上に置いてから座る。

 

一方、『ビジネス日本語マスターテキスト』では、以下のように、「2人で名刺交換する場合」と「複数で名刺交換する場合」とに分けて記述しているところが特徴的である。この記述は、日本人母語話者も参考になる。

 

(2人で名刺交換する場合)

文字を相手に向ける。

差し出すときももらうときも必ず両手で行う。

「〇〇商事の△△と申します。よろしくお願いいたします」と自己紹介しながらおじぎをして渡す。

もらう側はおじぎをして両手で受け取り「ちょうだいします」という。できれば、名刺入れの上でいただくようにする。

テーブルについたら名刺入れの上に乗せておく。

(複数で名刺交換する場合)

1.あなたの上司と担当者の上司

2.あなたの上司と担当者

3.あなたと担当者の上司

4.あなたと担当者

 

2.3ビジネス情報入手の方法

 

ビジネス情報の入手の方法は、三社とも「ビジネスとコミュニケーション」の項目で扱っているが、その方法には大きな違いがある。以下、その違いを整理してみる。

 

【暁出版】pp.213-223

(情報入手の方法)

人的ネットワーク・マスメディア(新聞・書籍・雑誌・カタログ・フリーペパー・テレビ・ラジオ・携帯電話・インターネット・電子掲示板・ブログ・投稿サイト)

(情報の活用)

情報の選択・分析、情報の管理とファイリング、情報の信頼性、

情報のセキュリティ管理、オフィスのセキュリティ

 

実教出版pp.192-199

(情報入手の方法)

インターネット・新聞・書籍・雑誌・白書・統計資料・顧客データ・

営業マニュアル

(情報の活用)

自社内での情報の活用・顧客に対する情報の活用

 

東京法令出版pp.38-50

(情報入手の方法)

人からの収集(人脈づくり)・メディアからの収集(テレビ・新聞・書籍・雑誌)・インターネットからの情報収集(検索エンジン・ブログ・データベース・統計情報)

(情報の活用)

情報の分析(データの分類・整理・解釈)・情報の伝達・情報の保管

 

特に、情報の活用の項目に差があることがわかる。暁出版はセキュリティに力を入れた記述であるのに対して、東京法令出版はデータとしていかに活用するかに力点が置かれている(注6)。

 

2.4ビジネスとコミュニケーション

 

「ビジネス基礎」で扱われている共通の項目としては、「挨拶・姿勢・身だしなみ・ことばづかい・表情・聞き方と話し方・電話応対・訪問と来客応対」などのビジネスマナーに重点を置いて記述がなされている特徴があげられる。

実教出版には、ロールプレイングとして、「電話の応対」(p.190)と「来客の応対」(p.191)が掲載されている。また、具体的な文例はないものの、実習例として「電子メールの使い方」(p.210)も掲載している。

暁出版と東京法令出版は、ビジネスの心構えという節が立項され、倫理観・責任感・協調性を説いている(暁出版p.187、東京法令出版pp.18-19)。それに対して、実教出版は、ビジネスのコミュニケーションの重要性を記述している(p.172)。

また、暁出版にはマネジメントサイクル(PDCAサイクル・管理の循環)の記述、東京法令出版には良好な人間関係の記述があることが特徴的である(注7)。

 

【暁出版】p.186

どのような組織形態でも、日常のビジネスは、主任や係長などのチームリーダーの下、協働関係を形成して進められる。その際、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(Action)(改善)の循環を考え、ビジネス活動を進めていく必要がある。

 

東京法令出版p.30

    良好な人間関係

1.相手の立場に立って考える 2.相手の長所をみつける

3.不必要な自己主張はしない 4.うわさ話はしない

5.自己の感情をおさえる 6.仕事以外の行事にも進んで参加する

 

3.計算の記述

 

実教出版は「第6章売買に関する計算」(pp.150-170)、東京法令出版は「第5章ビジネスと売買取引」の「第4節ビジネス計算の基礎」(pp.184-211)において、それぞれビジネスに必要な計算を説明しているが、暁出版は「第2章ビジネスと売買取引」の「第2節ビジネス計算の基礎」(pp.39-59)の「1.ビジネス計算と電卓の利用」という、電卓を中心に扱う項目を立項していることは大きな特徴である。これは、暁出版は珠算関連の書籍を手掛けていることにも関連していると考えることができる。

 

4.日本語教育のビジネスコミュニケーション

 

4.1「BJTビジネス日本語能力テスト」

 

公益財団法人・全国商業高等学校協会の実施している「商業経済検定」と「ビジネスコミュニケーション検定」がある(注8)。「商業経済検定」の試験科目(「ビジネス基礎」「ビジネス経済」「ビジネス経済応用」「経済活動と法」「マーケティング」)の中に「ビジネス基礎」の試験も課されているが、その中に「ビジネスコミュニケーション」の分野は過去5年のうちで2題しか出題されていない。この分野については、同様に公益財団法人・全国商業高等学校協会が実施している「ビジネスコミュニケーション検定」の問題の方に反映されているようである。この「ビジネスコミュニケーション検定」は、総合科目としての「ビジネス実務」の内容を反映したものであり、「ビジネス実務」の内容は「ビジネスコミュニケーション検定」「秘書検定」の対策としても活用できる構成になっており(注9)、ビジネス文書(注10)、メール文、手紙文、会話のロールプレイなども掲載されており、日本語教育の「ビジネス日本語」との整合性も高い。

「BJTビジネス日本語能力テスト」準拠として編集された、本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』では、ロールプレイングの実例が豊富であり、ビジネス文書・手紙文・メール文・場面ごとの会話文の実例が多いことが特徴的である。「BJTビジネス日本語能力テスト」は現実のビジネスシーンに即した言語運用を測定するものであり、実践的だと言える。過去問題ではビジネス場面を重視した問題である。その試験は、第1部から第3部からなり、それぞれが3つのセクションに分かれている。「ビジネスコミュニケーション検定」よりも資料・図表などの読み取り問題が多いのが特徴的である。以下、公益社団法人・日本漢字能力協会編(2017)pp.84-86のまとめを示す。

 

第1部(聴解テスト)

セクション1(場面把握問題)

ビジネスにおけるコミュニケーションシーンを見て、「場所、人、ものを参考にして、どういうことが行われている場面なのか」を把握する能力、および、それに該当する音声情報を聴き分ける能力を測る。

セクション2(発言聴解問題)

ビジネスコミュニケーションの場にふさわしい対応、あるいは、人間関係や場面に合った表現をする能力を測る。

セクション3(総合聴解問題)

    ビジネス場面で、会話・独話の内容を聴き取って、情報の意味を理解する能力、および、日本語による課題を達成するための総合的な聴解力を測る。

第2部(聴読解テスト)

セクション1(状況把握問題)

自分が直接関与していない会話の内容を聴き取って、その情報の意味を理解する能力を測る。

セクション2(資料聴読解問題)

文書や図表を見て、音声によって指示された課題を達成する能力を測る。

セクション3(総合聴読解問題)

    ビジネス場面で、日本語を使って課題を達成する際、聴解力と読解力がバランスよくあるかどうかを測る。

第3部(読解テスト)

セクション1(語彙・文法問題)

日本語の語彙や文法の知識が運用できるかどうかを測る。

セクション2(表現読解問題)

場面や状況、人間関係に応じた適切な表現が使えるかどうかの能力を測る。

セクション3(総合読解問題)

      文書やメールを読み取って、得られる情報の意味を理解する能力、および、日本語による課題を達成する能力を測る。

 

「ビジネスコミュニケーション検定」は理論的、「BJTビジネス日本語能力テスト」は実践的と言える。そのため、「BJTビジネス日本語能力テスト」や『ビジネス日本語マスターテキスト』の学習をしたのちに、「ビジネスコミュニケーション検定」や『ビジネス基礎』の学習を行うなどの相互補完的に学ぶことも大切ではないだろうか。

 

4.2日本語教育の中でのビジネス日本語教育

 

西尾珪子(1994)によると、1970年代から外国人ビジネス関係者の日本語教育に取り組んできたという。特に、日本語教育における「コースデザイン」の研究が急速に推進されたのは、ビジネス関係者の教育に負うところが多いと述べている。高見澤孟(1994b)では、ビジネス・コミュケーションの特性を以下の4つにまとめている(注11)。

 

(1)「仕事のため」の公的な話し合いである。

(2)参加者は「相互理解」に達する必要がある。

(3)主張の違いは、話し合いを通して調整される。

(4)合意された「相互理解」が「仕事」の内容となる。

 

近藤彩(2004・2007)では、ビジネス・コミュニケーション研究は、4つの焦点で行われてきたと述べている。近藤彩(2004・2007)の述べる4つを整理してみると以下のようになる(注12)。

 

第1・・ビジネス活動の研究

主に質問紙による量的研究

第2・・ビジネスのやり取りの研究

商談や会議、セールス場面を扱った質的研究

日本人ビジネス関係者を対象とした研究

外国人ビジネス関係者を対象とした研究

日本人と外国人の双方を対象とした研究

接触場面の研究・比較対象研究)

第3・・日本語学習に関する研究

ビジネス活動の現場の視点を日本語学習に取り入れた研究

授業報告・実践報告・待遇表現の研究

(敬語表現・婉曲表現・語彙調査・経済分野・ビジネス文書・企業ニーズの会話教材など)

第4・・これまでの提言・助言

早い段階から日本語によるビジネス・コミュニケーションの役割や課題を指摘した内容

 

近藤彩(1998・2007)は、量的研究と質的研究を行い、外国人ビジネス関係者は、「不当な待遇」「仕事の非効率」「仕事にまつわる慣行の相違」「文化習慣の相違」の4つの問題点を感じている点を指摘している。

先行研究の中で、それまで個別的に論じられていた「ビジネス日本語」が体系的なものになっていくのは、管見に入るかぎり、1994年に続けて刊行された以下の3点である。1994年にビジネス日本語の方向性が定まったと言えそうである。

 

1.『外国人ビジネス関係者のための日本語教育Q&A』文化庁国語課・1994年8月

2.『ビジネス日本語の教え方』高見澤孟・アルク・1994年9月

3.『日本語学 特集 ビジネス・コミュニケーション』明治書院・1994年11月

 

1では、(社)国際日本語普及協会の、「職場の外国人社員にどの程度まで日本語を期待しますか」という調査を引用している。その調査では、以下のようになっている。

 

1コミュニケーションが円滑になる程度の日常会話          35.1%

2簡単な仕事の打ち合わせができる程度の日本語             33.7%

3会議や情報交換も支障のない程度の日本語                    12.3%

4仕事もできるだけ日本語でしてほしい                          7.7%

5あいさつだけでいい                                                    5.3%

 

1、2、3の項目で全体の81.1%を占めている。この項目は、日本人母語話者にも必要な項目ではないだろうか。

 

結び

 

学習指導要領の改訂に伴って、高等学校商業科で新設された基礎科目である『ビジネス基礎』は、出版社ごとに重要語句の選定が異なり、経営の視点、倫理的な記述、計算、情報の活用などの項目での記述の特徴が出ている。しかし、全般的に実践的なロールプレイが少なく、経済学・経営学の理論的な側面が強い。それは「商業経済検定」の試験科目「ビジネス基礎」にも反映されている。また、「ビジネスコミュニケーション検定」は、総合科目である『ビジネス実務』の内容に準拠したものであり、『ビジネス実務』は秘書検定の対策にもなるように配慮されている。そのため、『ビジネス実務』と「ビジネスコミュニケーション検定」は、実践的な「BJTビジネス日本語能力テスト」との整合性がある。そのため、「BJTビジネス日本語能力テスト」や『ビジネス日本語マスターテキスト』の学習をしたのちに、「ビジネスコミュニケーション検定」・『ビジネス実務』や「商業経済検定」・『ビジネス基礎』の学習を行うなど相互補完的に学ぶことも大切ではないだろうか。それはまた、日本人母語話者にとっても有益ではないだろうか。日本人向け、外国人向けという区別にとらわれることなく、両方の活用を行う必要があるのではないか。

一般のビジネス書は膨大であり個別的なため、何を基準に学習すればよいのか、非常に悩ましい面がある。そのためにも、高等学校商業科の『ビジネス基礎』をはじめとする教科書や、全国商業高等学校協会の実施している各種検定を参照してみるのも有益なのではないだろうか。

 

(注)

1

「ビジネス基礎」という科目は1999年の学習指導要領から設置された科目である。番場博之(2010)は、「それまで細切れに独立的に教授してきた教育のなかに、総論的な科目を導入しようとしたことの意義は学問体系においても教育体系においても評価されるものであり、また導入的であるという意味で商業科の置かれている現実に即したものであった」(p.109)と述べている。

2

それぞれどのような出版物が多いのかを調査してみると、およそ以下のようになる。

実教出版・・各種検定対策

暁出版・・珠算・電卓・経営理念

東京法令出版・・ビジネス法務関連

3

公益財団法人日本漢字能力検定協会(2017)『BJTビジネス日本語能力テスト 公式模擬テスト&ガイド』には、「BJTで測定する能力」として以下の7つが示されている。

1.場面・状況を認識する力

2.情報の意味・意図を読み取る力(受容)

3.課題に合った対応力(表現・行動)

4.ビジネス文書にかかわる処理能力

5.言語の基礎力(語彙・文法、敬語・待遇表現)

6.未知の語句に対する処理能力

7.日本的商習慣への異文化調整能力                                    (p.80)

4

コミュニケーション言語学としては、グライス、リーチ、オースティン、サールなどの研究が知られているが、ビジネスの場合実践重視であるため、日経ビジネスアソシエ(2015)では、コミュニケーションやビジネス心理学の定番として、デール・カーネギー『人を動かす』、スティーヴン・コヴィー『7つの習慣』なども紹介され、近年では、リチャード・バンドラーとジョングリンダーの共同研究による、言語学と心理学との融合からなるNLPにも注目が集まっている。また、心理学者でありながら、ダニエル・カーネマンノーベル経済学賞を受賞したことで、その主著『ファスト&スロー』をはじめとするビジネス心理学が広まった。日本の文化的な側面に配慮したものとしては、芳賀綏(1963)、石黒圭(2015)などがある。

5

日本のビジネス倫理や経営理念について、土屋喬雄(1964・1967)、柘植尚則(2014)を参考に簡略化してまとめると以下のようになる。

(近世)井原西鶴『日本永代蔵』・・金持ちの心得

鈴木正三『万民徳用』・・仏教と経済

石田梅岩『都鄙問答』・・町人学者による心学

(近代)澁澤栄一『論語と算盤』『論語講義』・・道徳経済一致論

(現代)松下幸之助・・水道方式・船場の商人の教え

稲盛和夫・・東洋の帝王学・仏教・儒教

柳井正・・ドラッカー理論

また、堺屋太一(2006)は、リーダーとして以下の12名をあげている。

聖徳太子光源氏源頼朝織田信長石田三成徳川家康石田梅岩

大久保利通渋沢栄一マッカーサー池田勇人松下幸之助

この12人の選定には特徴があり、特に何もしないリーダーを「光源氏型」、次々に推し進めるリーダーを「信長型」としている。さらに、五代友厚渋沢栄一「日本的協調主義」と岩崎弥太郎「進歩的個人主義」とを対比させいる。渋沢栄一の「論語的発想」の限界点も指摘している。「渋沢型」と「岩崎型」という対比の経営者の分類行っている。

「渋沢型」・・本田宗一郎松下幸之助

「岩崎型」・・石坂泰三・土光敏夫

企業家史の流れとして、PHP叢書「日本の企業家13人」、平野隆(2013)、林廣茂(2019)を参考に示してみると以下のような流れになる。

(江戸後期)

二宮尊徳・・資本主義の精神を説く

(明治)

岩崎弥太郎・・三井財閥を興す

安田善次郎・・安田財閥を興す。運・鈍・根・金・健

澁澤榮一・・500もの会社を興す。渋沢論語。道徳経済一致論。

豊田佐吉・・トヨタグループを創業する

三野村利左衛門・広瀬宰平・五代友厚・益田孝・日々翁助・金子直吉・福沢桃介

(昭和)

松下幸之助・・水道哲学松下電器パナソニック)を興す

土光敏夫・・東芝の再建などで活躍

井深大・・ソニーを創業する

盛田昭夫・・ソニーを創業する

中内功・・安売り哲学でダイエーグループを創業

松永安左衛門・石田退三・本田宗一郎・坪内寿夫・小倉昌男江副浩正

(現在)

稲盛和夫・・京セラ創業者

柳井正・・ファーストリーディング創業者

三木谷浩・・楽天創業者

鈴木敏文澤田秀雄南部靖之孫正義

6

ビジネススキルや社会人の学習法の元祖的な著作として、梅棹忠夫(1969)の『知的生産の技術』(岩波新書)があるが、藤井孝一(2016)は、ビジネススキルとして10の分野(思考法・発想法と読書術・ビジネス基礎力・自己管理法・コンセプト設計と戦略・コミュニケーション術・マネジメント法・人生設計術・自己実現法・成功哲学)にわけて、参考書を紹介している。

7

ビジネスコミュニケーション、人間関係、成功哲学書としても読まれてきたデール・カーネギー『人を動かす』では、以下の原則をあげている。

人を動かす三原則・・1.盗人にも五分の理を認める・2.重要感を持たせる・3.人の立場に身を置く

人に好かれる六原則・・1.誠実な関心を寄せる・2.笑顔を忘れない・3.名前を覚える

4.聞き手にまわる・5.関心のありかを見抜く・6.心からほめる

人を説得する十二原則

1.議論を避ける・2.誤りを指摘しない・3.誤りを認める・4.穏やかに話す

5.「イエス」と答えられる問題を選ぶ・6.しゃべらせる・7.思いつかせる

8.人の見になる・9.同情を寄せる・10.美しい心情に呼びかける

11.演出を考える・12.対抗意識を刺激する

人を変える九原則

1.まずほめる・2.遠まわしに注意を与える・3.自分の過ちを話す・4.命令をしない

5.顔をつぶさない・6.わずかなことでもほめる・7.期待をかける・8.激励する

9.喜んで協力させる

8

商業経済検定・ビジネスコミュニケーション検定・ビジネス文書実務検定・英語検定・簿記実務検定・情報処理検定・会計実務検定・珠算電卓実務検定を実施している。

9

「ビジネス基礎」と「ビジネス実務」という科目に注目した高大連携の論文として、関由佳里・山野邦子・佃昌道・高塚順子・水口文吾(2012)がある。特に、ビジネスに必要な英会話、文書の作成、「ビ実践的なビジネスマナーやコミュニケーションを取り入れた点にある「ビジネス実務」(大きくは、オフィス事務・ビジネスと珠算、ビジネス英語の内容から成る)に注目し、高松大学の秘書科の課程と比較している。

10

ビジネス文書については、諸星美智直(2011・2012a・2012b・2014・2016)の一連の研究がある。

主な文章読本としては、古くは、芳賀矢一五十嵐力谷崎潤一郎菊池寛川端康成三島由紀夫中村真一郎丸谷才一井上ひさし斎藤美奈子小谷野敦、布施英利、中条省平などがある。また、随意選第の綴り方教授の流れとしては、国語教育の分野では、樋口勘次郎、友納友次郎、芦田恵之助、小砂丘忠義、鈴木三重吉、国分一太郎豊田正子大村はま無着成恭などがいる。語学的な立場から、時枝誠記、市川孝、永野賢、森岡健二のものがある。しかし、現代の文章は、文章心理学の立場の、波多野完治、堀川直義、安本美典、中村明の研究、パラグラフ・ライティングからの流れのアカデミック・ライティング、ビジネス文書の流れに統一されつつあるようである。

11

また、高見澤孟(1994b)は、日本語の「あいまいさ」と「難しさ」について、以下の4点を示している。

(1)主語が明示されないことが多い。 (2)語順があいまい

(3)日本語の立場志向 (4)待遇表現の使い分け

さらに提案として、外国人とのコミュニケーションを容易にするために「言語メッセージ」「非言語メッセージ」「文脈」に注意する必要があると述べている。

〈発信活動における言語メッセージ〉

(1)明瞭な発音 (2)簡潔な文 (3)具体的な指示内容のある「ことば」 

(4)接続詞による文の関連明示 (5)適切な言い換え (6)実例提示

(7)結論の明示 (8)遠慮表現の抑制

〈発信活動における非言語メッセージ〉

(1)受容的な態度/相手をリラックスさせる態度 (2)にこやかな表情

(3)具体的な形態を示すジェスチャー (4)文化、習慣に基づくジェスチャーの抑制

〈発信活動における文脈〉

(1)文脈依存を軽減 (2)言語による明示的指示

音声面でのわかりやすさとしては、秋山和平(1994)が「わかりやすさ」と「的確さ」として以下の4要素を述べている。

1.情報提示のための話しの組み立て2.話体の簡潔さ3.音声化の明快さ4.聞き取り能力の適正化

12

近藤彩(2004・2007)は、この中の第3の研究の中から生み出された、高見澤孟(1994a)『ビジネス日本語の教え方』は、それまでの豊富な経験をもとにしたもので、教育現場に示唆を与えた画期的なものとして評価している。内容的には、教授法を中心に述べたものであり、巻末には必要なビジネスの経済・経営分野についての参考文献が日経文庫を中心に紹介されている。その一方で、堺憲一(2010)は、経済小説から経済学の知識を得るという試みを説き、その流れの研究に諸星美智直(2013)の研究がある。佐高信(2004)を参考に以下に主な経済小説をまとめてみる。

(中世)

徒然草』『人鏡論』

(近世)

『長者教』

井原西鶴『日本永代蔵』『世間胸算用

(昭和)

城山三郎清水一行高杉良

(平成)

池井戸潤幸田真音

 

(参考文献)

秋山和平(1994)「ビジネス・コミュニケーションにおける『話しことば』の役割と課題」『日本語学』13巻11号

池田伸子(1996)「日本人ビジネスマンの話し言葉における語彙調査-ビジネスマン用日本語教育システム開発の基礎として-」『日本語教育』88号

石黒圭(2015)『心を引き寄せる 大人の伝え方集中講義』サンクチュアリ出版

井上史雄(2007)『その敬語では恥をかく』PHP

川内満(2014)「ビジネス教育と利潤追求-ビジネス教育論の構築に向けて-」『修道商学』55巻1号

河田美恵子(2006)『ビジネス文書と日本語表現』学文社

木下是雄(1994)「これからのビジネスコミュニケーション」『日本語学』13巻11号

グロービス経営大学院(2014)『グロービス流ビジネス基礎力10』東洋経済新報社

駒田純久(2013)「商業教育の変容と商人像」『商学論究』60巻4号

近藤彩(1998)「ビジネス上の接触場面における問題点に関する研究-外国人ビジネス関係者を対象として」『日本語教育』98号

近藤彩(2004)「日本語教育のためのビジネス・コミュニケーション研究」『言語文化と日本語教育』11号増刊特集号

近藤彩(2007)『日本人と外国人のビジネス・コミュニケーションに関する実証研究』ひつじ書房

近藤彩(2014)「日本語非母語話者と母語話者が学びあうビジネスコミュニケーション教育-ダイバーシティーの中で活躍できる人材の育成に向けて」『専門日本語教育研究』第16号

堺憲一(2010)『この経済小説が面白い』(ダイヤモンド社

堺屋太一(2006)『日本を創った12人』PHP文庫

佐高信(2004)『経済小説の読み方』光文社

ティーブン・R・コヴィー(【原書1989】ジェームス・スキナー 河西茂訳1996)『7つの習慣』キング・ベアー出版

関由佳里・山野邦子・佃昌道・高塚順子・水口文吾(2012)「ビジネス実務教育における高大連携のあり方」『研究紀要』第56・57号(高松大学高松短期大学

高見澤孟(1994a)『ビジネス日本語の教え方』アルク

高見澤孟(1994b)「ビジネス・コミュニケーションと日本語の問題」『日本語学』13巻11号

島弘司(1994)「『外国人ビジネス関係者のための日本語Q&A』を紹介する」『日本語学』13巻11 

  号

田丸淑子(1994)「ビジネス・スクールの日本語教育」『日本語学』13巻11号

ダニエル・カーネマン(【原書2011】村井章子訳2012)『ファスト&スロー』早川書房

ダニエル・カーネマン(【原書2011】村井章子訳2012)『ファスト&スロー』早川書房

デール・カーネギー(【原書1936】山口博訳2016)『人を動かす』創元社

デール・カーネギー(【原書1948】香山晶訳2016)『道は開ける』創元社

柘植尚則(2014)『プレップ経済倫理学』弘文堂

土屋喬雄(1964)『日本経営理念史』日本経済新聞社

土屋喬雄(1967)『続日本経営理念史』日本経済新聞社

西尾珪子(1994)「ビジネスコミュニケーションと日本語教育」『日本語学』13巻11号

日経ビジネスアソシエ(2015)『仕事のための5つの基礎力』日経BP

日経ビジネスアソシエ(2016a)『10分でわかるビジネス教養』日経BP

日経ビジネスアソシエ(2016b)『ビジネス基礎力の教科書』日経BP

芳賀綏(1963)『自己表現術-話が下手では話にならぬ-』光文社

林廣茂(2019)『日本経営哲学史筑摩書房

番場博之(2010)『職業教育と商業高校』大月書店

平野隆(2013)「福沢諭吉と『福沢山脈』の経営者」『近代日本と福澤諭吉慶応義塾大学出版会

細川英雄(2019)『対話をデザインする-伝わるとはどういうことか-』筑摩書房

諸星美智直(2011)「ビジネス文書におけるポライトネス・ストラテジーについて」『国学院大学日本語教育研究』第2号

諸星美智直(2012a)「日本語ビジネス文書学の構想-研究分野と研究法-」『国語研究』第75号

諸星美智直(2012b)「ビジネス文書における『あしからず』の機能-ビジネス文書文例集を資料として-」『国学院大学日本語研究』3号

諸星美智直(2013)「ビジネス日本語教材としての経済小説」『国学院大学日本語教育研究』3号

諸星美智直(2014)「ビジネス文書における副詞『あらかじめ』の用法-企業ウェブサイトと内容証明郵便を中心に-」『国学院大学日本語研究』5号

諸星美智直(2016)「近代ビジネス文書史における候文と口語文と」『国語研究』79号

水谷修(1994)「ビジネス日本語を考える」『日本語学』13巻11号

 

(テキスト)

『ビジネス基礎 新訂版』実教出版・2018年・7実教商業334

『ビジネス基礎 新訂版』東京法令出版・2018年・190東法商業335

『新ビジネス基礎』暁出版・2018年・144暁商業302

本間正人監修(2017)『ビジネス日本語マスターテキスト』IBCパブリッシング

公益社団法人・日本漢字能力協会編(2017)『BJTビジネス日本語能力テスト・公式模擬テスト&ガイド』三松堂株式会社

 

【謝辞】

本発表にあたり、髙沢修一先生(経営学)、由川稔先生(経済学)から貴重なご意見をいただきました。御礼申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考資料1

 

河田美恵子(2006)『ビジネス文書と日本語表現』学文社

(目次)

1ビジネス文書の作成に必要な知識

文書の重要性・文書の果たす役割・文書の分類・文書作法の心

2わかりやすく正確に文章を書くための文章作法

文章の構成・正確な文章表現・文体の統一・現代表記法・縦書きと横書き

3敬語表現と敬称

敬語の分類と使い方・敬語表現・宛名の敬称

4日本語表現

話し言葉と書き言葉・言葉遣い・心遣いを表す言葉・断りの言葉

ビジネス文書にとってマイナスイメージの言葉・電報文

5ビジネス文書の能率的な書き方

社内文書の形式と書き方・社外文書の形式と書き方

封筒・返信はがきの書き方と使い方

6文書表現のポイントと留意点

取引上の文書・社交・儀礼的文書・慶弔の文書と忌み言葉

7ビジネスEメールの作成と発信に関する作法

ビジネス環境の変化・Eメールの特性・Eメールの言葉遣い

Eメールの基本的書き方・その他の留意点

8文書の取り扱い

受信、発信文書の取り扱いと通信業務・郵便の基礎知識・押印の知識・押印の仕方

 

 

参考資料2

 

ビジネスの世界では欠かすことのできない「敬語」の項目であるが、井上史雄(2007)『その敬語では恥をかく』(PHP)が実践的に書かれており、便利である。その概要を以下に示しておく。

 


謙譲語

 

○お待ちください。

○お待ちになってください。

△お待ちしてください。

 

○係に お聞きになってください。

×係に お聞きしてください。

○係に お聞きください。

 

×当方に お電話してください。

○当方に お電話ください。

△当方に お電話なさってください。

 

×当社を ご利用していただきたい―

○当社を ご利用いただきたい―

 

○ご注意くださるよう お願いします。

○ご注意なさるよう お願いします。

×ご注意するよう お願いします。

 

△紹介してください。

×ご紹介してください。

○ご紹介ください。

 

△お邪魔の際は

○お邪魔した際は

 

×あの方が ご出演していた

×あの方が 出演されていた

×あの方が 出演しておられた

○あの方が 出演していらっしゃった(いらした)

 

○お乗りになりますか

×お乗りいたしますか

 

 

○窓口で お聞きください。

○窓口で お聞きになってください。

×窓口で うかがってください。

 

×拝見してください

○ご覧ください

○ご覧になってください

 

○どうか なさいましたか。

○どうか しましたか。

×どうか いたしましたか。

△どうか されましたか。

 

×中村課長は おられますか。

×中村課長は おりますか。

○中村課長は いらっしゃいますか。

 

×大阪には いつ 参りますか。

×大阪には いつ 参られますか。

○大阪には いつ いらっしゃいますか。

 

 

 

△電車が まいります

○電車が きます

 

×いただいてください

○お受けとりください

 

×粗茶ですが いただいてください。

○粗茶ですが お上がりください。

○粗茶ですが 召し上がってください。

 

○うちの子に やっていいですか。

△うちの子に あげていいですか。

 

○貴社には 部長が うかがいます。

×貴社には 部長が いらっしゃいます。

○貴社には 部長が 参ります。

○貴社には 部長が 参上(いた)します。

 

×社長が 申されるように

○社長が おっしゃるように

×社長が 申すように

 

○社長が 部長に 下さるんです。

△社長が 部長に お上げになるんです。

×社長が 部長に 差し上げるんです。

 

△お休みを いただいております。

△休んで おります。

○休ませて いただいております。

○休みを いただいております。

 

○ランチには コーヒーが 付きます。

×ランチには コーヒーが お付きします。

 

△祖父が 亡くなりまして

△祖父が 死にまして

△祖父が 他界(永眠)しまして

○祖父を 亡くしまして

 

 

尊敬語

 

×いらっしゃられる

○いらっしゃる

 

○おっしゃる

×おっしゃられる

 

×お召し上がりになる

○召しあがる

 

○お帰りになりました

×お帰りになられました

 

×ご覧になられる

○ご覧になる

 

○お宅に 犬が いる。

×お宅に 犬が いらっしゃる。

 

△お宅で いらっしゃいますか。

△お宅で ございますか。

○お宅 ですか。

○お宅 でしょうか。

 

○紅茶は いかがですか。

×紅茶を 飲みたいですか。

 

○ご乗車になれません

×ご乗車できません

 

×ご利用できます

○ご利用になれます

 

△ご利用される

○利用される

○利用なさる

 

×ご出発される

○出発される

 

△社長が お話しされる。

○社長が お話しになる。

 

×ご記入されてください

○ご記入ください

×記入されてください

○記入してください

 

○ご自由に お取りください

×ご自由に 取られてください

 

×お食べに なりますか

○召し上がりますか

○お上がりに なりますか

×お召し上がりに なりますか

 

○言われますか

○おっしゃいますか

×お言いになりますか

×おっしゃられますか

 

△おやりに なる

○なさる

 

 

丁寧語・美化語・その他

 

○あります

△ありますです

 

△美しいです

○美しゅうございます

 

○用意してあります

△用意してございます

 

○召し上がり方

△お召し上がり方

 

△お足

○おみ足

 

○ご入学

△お入学

○入学

 

×おビール

○ビール

 

○求めやすい

△お求めやすい

○お求めになりやすい

 

×お分かりにくい

○お分かりになりにくい

○分かりにくい

 

△お着物

○お召し物

○着物

 

△長ったらしい ご説明で

○長ったらしい 説明で

 

○あしたは 仕事 休みです

△あしたは お仕事 お休みです

 

△(5000円)お預かりします

○(5000円)いただきます

 

○5000円を(お預かりします)

△5000円(お預かりします)

×5000円から(お預かりします)

 

○ご注文は

×ご注文のほうは

 

×トーストになります

○トーストでございます

 

○禁煙席で よろしいでしょうか?

×禁煙席で よろしかったでしょうか?

 

×4月1日生まれじゃないですか

○4月1日生まれなんですけど

 

△司会を つとめさせていただきます

○司会を つとめます

 

○歌わせていただきます

×歌わさせていただきます

 

○母は おりません

×お母さんは いません

 

×鈴木さんは・・

○鈴木は・・

×鈴木社長は・・

○課長の鈴木は・・

 

△田中は・・

△田中先生は・・

○田中教諭は・・

 

×お名前様を いただけますか

○お名前を いただけますか

○お名前を うかがえますか

 

×私 作る人

△私 作る者

 

×ただで ございます

○無料で ございます


 

教育五者論

教育五者論

 

戦前の師範学校の頃から言いなわされている、「教育五者論」というものがあります。私は、このことばを、代々木ゼミナールの勤務時代に知りました。当時の代々木ゼミナールの副理事長(竹村保昭先生)から講師に言い伝えられていました。以下に教育者に必要な教育五者論とは、「学者」「役者」「芸者」「易者(記者)」「医者」です。

 

「学者」

学ぶ意識、探究心は重要ですよね。

「役者」

わかりやすく伝えることは大事ですね。

「芸者」

趣味や特技が多いほうが話題が豊富で楽しいですよね。

「易者(記者)」

ある程度、予測をつけることは大切ですね。入試問題を的中させる意味では易者です。情報通であることが十であると考えて記者とする説もあります。

「医者」

癒しの存在であることも大切ですね。